## カルテの保存期間 ###  はじめに ─ 法定保存で「十分」でしょうか カルテの保存期間について、先生方はどのようにお考えでしょうか。 「法律で決まっている期間を守っていれば問題ないだろう」。そのように考える方もいらっしゃると思います。[医師法](https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201)24条2項は、診療録を5年間保存する義務を定めています。ただし、記録の種類や施設に適用される他の法令もあるため、すべての医療記録を一律に5年で扱うことはできません。 法定の保存期間と、患者さんから損害賠償請求を受ける可能性のある期間も、別の問題です。保存義務を果たしていても、その後の診療や紛争への対応に記録が必要になることがあります。 現行の[民法](https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)では、生命・身体の侵害による損害賠償請求について、5年と20年の期間が定められています。ただし、両方の期間が同じ時から始まるわけではありません。また、契約上の義務違反に基づく請求か、不法行為に基づく請求かによっても、条文上の起算点は異なります。 例えば、契約上の義務違反による生命・身体の損害では、権利を行使できることを知った時から5年という期間があります。これとは別に、権利を行使できる時から20年という期間もあります(民法166条・167条)。不法行為による生命・身体の損害では、損害と加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年とされています(724条・724条の2)。 このため、診療録の保存義務の期間が過ぎても、損害賠償請求権の時効が完成しているとは限りません。「20年」という数字も、最後に診察した日から機械的に数えればよいというものではありません。古い事案では改正前の法律や経過措置の検討も必要で、個別の事情によって判断が異なります。 紛争になったときにカルテが手元になければ、診療の経過や判断の理由を確認し、説明することが難しくなります。記録がないことだけで直ちに医療機関の責任が認められるわけではありませんが、事実を確かめるための重要な資料を失うことになります。 カルテは、患者さんの継続的な診療の基礎資料です。医療安全や再発防止の検証にも用いられます。保存期間を考える際には、こうした役割と、紛争時の証拠としての役割の双方を踏まえることが大切です。 このシリーズでは、医療記録の法定保存期間と民法の消滅時効との関係を整理します。第1回では、診療録や看護記録について、どの法令がどのような保存期間を定めているのかを見ていきます。第2回では消滅時効の仕組みを、第3回では起算点と実際の保存方針を考えます。 法律の話が中心になりますが、できるだけ平易な言葉で進めていきたいと思います。院長先生をはじめ、事務長や医事課のご担当者の方々にもお読みいただければ幸いです。 ####  カルテの保存期間 目次 以下は順次公開予定です。 1. 第1回:診療録・看護記録の法定保存期間 2. 第2回:損害賠償請求と消滅時効 3. 第3回:時効の起算点 ─ なぜ単純に計算できないのか (公開日:2026年11月2日 文責:弁護士鈴木沙良夢)