## カルテの保存期間 (1)
### 診療録・看護記録の法定保存期間
[[カルテの保存期間 はじめに|前回]]は、医療記録の法定保存期間と消滅時効は別の問題であることをお話ししました。カルテは診療を支える資料であり、紛争時に経過を確認するための証拠でもあります。今回は、法律が医療記録の保存についてどのように定めているのかを見ていきます。
### 「診療録」とは ─ 医師法24条
医療現場で「カルテ」と呼ばれる記録の中心となるのが、医師法上の診療録です。[医師法](https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201)24条は、次のように定めています。
> 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
>
> 2 前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。
病院・診療所に勤務する医師の診療録は、その施設の管理者が保存します。それ以外の診療録は、その医師が保存します。いずれも、同条の保存期間は5年です。
同条への違反は、50万円以下の罰金の対象となり得ます(医師法33条の3第1号)。単なる努力義務ではありません。[歯科医師法](https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000202)23条2項も、同様に診療録の5年間の保存を定めています。
医師法24条には、いつから5年を数えるかが明記されていません。一方、保険医療機関に適用される療養担当規則には、起算点を示す規定があります。
### 療養担当規則の「完結の日から5年」
[保険医療機関及び保険医療養担当規則](https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000100015)(療養担当規則)9条は、次のように定めています。
> 保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあつては、その完結の日から五年間とする。
保険医療機関では、患者の診療録は完結の日から5年、それ以外の対象となる帳簿・書類等は完結の日から3年の保存が必要です。
ここで大切なのは、「作成した日から」ではなく「完結の日から」とされていることです。診療が続いている記録について、作成から5年が過ぎた部分を機械的に廃棄する運用は避ける必要があります。
同条は「完結の日」の具体的な判断基準までは列挙していません。通院が途絶えたという事情だけで一律に完結と扱わず、診療の経過や記録の内容を確認し、起算日の判断方法を院内で整理しておくとよいでしょう。
### 看護記録・手術記録等 ─ 病院の「過去2年」の備置義務
看護記録や手術記録、検査所見記録、エックス線写真などについては、別の規定もあります。
[医療法](https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205)21条1項は、病院に対し、診療に関する諸記録を備えて置くことを求めています。その内容を具体化したのが、[医療法施行規則](https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050)20条10号です。
> 診療に関する諸記録は、過去二年間の病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者及び外来患者の数を明らかにする帳簿並びに入院診療計画書とする。
この規定は、病院に過去2年間の記録を備えておくことを求めるものです。「備置」という表現であっても、記録を残さなくてよいという意味ではありません。また、この規定だけから、すべての診療所にも同じ2年の基準が適用されるとはいえません。
さらに、保険医療機関では療養担当規則9条も適用されます。看護記録などが療養の給付の担当に関する記録に当たる場合には、同条の保存義務も確認する必要があります。「看護記録は2年」とだけ決めてしまうと、他の保存義務を満たさないおそれがあります。
看護記録は、患者さんの状態や実施したケアを確認するための重要な資料です。診療録とあわせて経過を理解する必要があることも踏まえて、保存方針を考えます。
### 複数の法令が重なる構造
ここまで見てきた規定を整理すると、次のようになります。
| 根拠 | 主な対象 | 期間 |
| --- | --- | --- |
| 医師法24条2項 | 医師の診療録 | 5年間 |
| 歯科医師法23条2項 | 歯科医師の診療録 | 5年間 |
| 療養担当規則9条 | 保険医療機関の患者の診療録 | 完結の日から5年間 |
| 療養担当規則9条 | 療養の給付の担当に関するその他の帳簿・書類等 | 完結の日から3年間 |
| 医療法21条1項・医療法施行規則20条10号 | 病院の看護記録・手術記録・検査所見記録等 | 過去2年間の記録を備置 |
これは主要な規定の整理であり、医療記録に関係するすべての保存義務を網羅したものではありません。施設の種別や記録の内容によって、ほかの規定も確認する必要があります。
同じ記録に複数の義務がかかる場合には、そのすべてを満たすように管理します。短い方の期間を自由に選べるわけではありません。また、「5年」「3年」という数字だけでなく、どの日から数えるかも重要です。
院内では、記録の種類、適用される規定、起算点、保存期間、管理責任者を整理しておくとよいでしょう。関連する記録をまとめて保存する方法も考えられますが、一律に5年と決めれば十分とは限りません。
### 法定期間の経過と廃棄の判断は別の問題です
法定の保存義務を満たすことは、記録管理の出発点です。その期間を経過したからといって、直ちに廃棄することが適切とは限りません。
継続診療の必要性、院内規程、既に生じている紛争や開示請求への対応なども考慮します。保存期間が過ぎても、損害賠償請求権の消滅時効が完成していない場合があります。保存や廃棄の判断は、個別の事情によって異なります。
次回は、民法の消滅時効の仕組みについてお話しします。
#### カルテの保存期間 目次
- [[カルテの保存期間 はじめに|はじめに]]
- 第2回:損害賠償請求と消滅時効(公開予定)
- 第3回:時効の起算点(公開予定)
(公開日:2026年11月3日 文責:弁護士鈴木沙良夢)