## カルテ開示請求対応ガイド 事例集(2) [[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(1)|前回]]は、患者さん本人からの請求を取り上げました。今回は、未成年者や家族、遺族からの請求を考えます。以下は、対応の考え方を説明するための架空の例です。 ### 未成年の患者さん本人からの請求 16歳の患者Gさんが、自分の病気について詳しく知りたいとしてカルテの開示を求めています。一方、親御さんは、詳しい病名を知らせたくないと考えています。 厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」7(2)は、満15歳以上の未成年者について、疾病の内容によっては本人だけの請求を認めることができるとしています。15歳という年齢だけで一律に決めるのではなく、病状や本人の理解力、意思を確認する必要があります。 親御さんの意向は確認すべきですが、反対があることだけを理由に開示を断るのは適切ではありません。本人が何を知りたいのかを確かめ、説明の方法も含めて検討します。親御さんの同席が適切かどうかも、本人の意向を踏まえて考えることになります。 情報提供によって本人の心身に重大な影響が及ぶおそれがある場合などは、指針8や適用される法令に照らし、個別に判断します。単に病名を知れば不安になるというだけで、一律に非開示とするものではありません。 ### 認知症の患者さんのご家族からの請求 認知症が進行した患者Kさんの息子から、父の病状や治療内容を知りたいとして、カルテの開示を求められた場合です。 まず、認知症という診断だけで判断せず、本人が請求の意味を理解し、意思を示せるかを確認します。本人の意思を確認できる場合には、その意思を尊重して対応します。 指針7(2)は、判断能力に疑義がある成人について、実際にケアを行っている親族などを開示請求ができる者に含めています。息子であるという関係だけでなく、介護の状況や請求者の立場を確認することが必要です。 成年後見人などからの請求では、登記事項証明書などで資格と代理権を確認します。保佐人・補助人については、その肩書だけでカルテ開示の代理権があるとは限りません。付与された代理権の範囲を確認します。 また、治療のために家族へ説明することと、カルテ全体の写しを渡すことは分けて考えます。民間の医療機関では、個人情報保護法27条1項2号により、生命・身体・財産の保護に必要で、本人の同意を得ることが困難な場合に、同意なしの第三者提供が認められます。この例外による場合も、必要な情報の範囲を検討することになります。 ### ご家族の間で意見が分かれている場合 患者Lさんの家族の一人がカルテの開示を求め、別の家族が、その人には情報を渡さないでほしいと申し出た場合です。 医療機関は、家族間の対立そのものではなく、請求者に開示を求める資格があるか、本人がどう希望しているかを確認します。代理権や本人の同意の有無、情報提供を制限すべき事情を、それぞれ整理することが基本になります。 家族全員の同意が常に必要になるわけではありません。他の家族が反対しているという理由だけで、適法な請求を一律に拒むことも適切ではありません。 ただし、カルテに他の家族の私生活に関する情報などが記載されている場合には、その人の権利利益への影響も検討します。請求者の資格や開示範囲に疑問が残る場合には、確認した事実と判断の理由を記録し、必要に応じて専門家に相談します。 ### 亡くなった患者さんのご遺族からの請求 患者Nさんが亡くなり、遺族から診療記録の開示を求められた場合です。 [[カルテ開示請求対応ガイド (4)|(4)]]で取り上げたとおり、指針9は遺族への診療情報提供を定めています。対象は配偶者、子、父母およびこれらに準ずる者で、診療記録の開示にも原則として応じる取扱いです。戸籍などにより、本人確認と故人との関係の確認を行います。 相続人であれば誰でも同じように開示を求められる、という整理ではありません。請求者が指針上の遺族に当たるかを確認し、故人の生前の意思や名誉も尊重して判断します。 生前に開示を望まない意思が示されていた場合や、第三者の権利利益に関わる情報が含まれる場合には、個別の検討が必要です。遺族間で意見が分かれている場合も、反対者がいることだけを理由とせず、請求者の資格と開示範囲を確認します。 以上は基本的な考え方であり、適用される法令や本人の状態、請求者の権限など、個別の事情によって対応は異なります。 事例集(3)(今後公開予定)では、代理人や弁護士、保険会社からの請求を取り上げます。 #### カルテ開示請求対応ガイド 事例集 目次 - [[カルテ開示請求対応ガイド はじめに|本編目次]] - [[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(1)|事例集(1)患者本人からの請求]] (公開日:2026年10月29日 文責:弁護士鈴木沙良夢)