## カルテ開示請求対応ガイド 事例集(3) [[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(2)|前回]]は、家族や未成年者、遺族からの請求を取り上げました。今回は、代理人や弁護士、保険会社からの請求を考えます。以下は、対応の考え方を説明するための架空の例です。 ### 委任状を持った代理人からの請求 患者Iさんの代理人である弁護士から、委任状を添えてカルテ開示請求があった場合です。 本人から正式に委任を受けた代理人による請求は、原則として本人からの請求と同様に扱います。ただし、[[カルテ開示請求対応ガイド (2)|(2)]]や[[カルテ開示請求対応ガイド (4)|(4)]]で述べたとおり、本人確認と代理権の確認が必要です。 委任状では、誰が誰に委任したのか、作成日、対象となる診療記録、開示請求や記録の受領についての権限を確認します。署名や押印は確認の手がかりになりますが、押印があることだけで真正な委任状と判断することはできません。反対に、押印がないことだけで一律に無効とするものでもありません。 委任の範囲が曖昧な場合や、現在も委任が続いているか疑問がある場合には、補足書類や本人への確認などで確かめます。必要以上に煩雑な書類を求め、本人に過重な負担をかけることも避ける必要があります。 ### 弁護士からの請求と弁護士会照会 弁護士が患者さんの代理人として開示を求める場合と、弁護士会が法律に基づいて照会する場合は、手続を分けて考えます。 患者さん本人の委任に基づく請求では、代理権と開示範囲を確認して対応します。医療過誤の検討や訴訟の準備が目的であることだけを理由に、開示を拒むことはできません。第三者の権利利益など、非開示を検討すべき事情があるかは別に判断します。 一方、弁護士会照会は、弁護士法23条の2に基づき、弁護士会が公務所や公私の団体に必要な事項の報告を求める制度です。弁護士個人からの問い合わせが、すべてこの照会に当たるわけではありません。 個人情報保護委員会の[医療・介護関係ガイダンスQ&A](https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/iryoukaigo_guidance_QA/)のQ4-4は、弁護士会への回答を、個人情報保護法上の「法令に基づく場合」としています。そのため、本人の同意がないことだけで回答できないとはいえません。 ただし、同Q&Aは、回答するかどうかを個別の事例ごとに判断する必要があるとも説明しています。個人情報保護法上の同意の要否と、守秘義務との関係や具体的な回答範囲は、分けて検討する必要があります。 照会元と照会事項を確認し、どの情報が求められているかを整理します。判断に迷う場合には、照会元への確認や専門家への相談を行い、検討した内容を記録して対応することになります。 ### 保険会社からの請求 患者Qさんの保険金請求に関連して、保険会社から過去の診療記録を広く求められた場合です。患者さんの同意書が添付されていますが、どの期間の、どの情報まで提供するのかが明確ではありません。 同じQ&AのQ4-6は、保険会社が本人の同意書を提出した場合でも、医療機関は通常、その内容について本人の意思を確認する必要があるとしています。署名後に本人の考えが変わっていることもあるためです。 提供する情報の期間、診療録の写しや要約の別、検査結果を含むかなどを具体的に説明し、現在の意思を確認します。同意書があることだけを根拠に、記録をすべて渡す取扱いは避ける必要があります。 なお、保険会社への第三者提供としての照会と、本人の委任を受けた代理人としての開示請求は、手続が異なります。どちらの請求なのかを確認し、それぞれの手続に応じて、同意や代理権、開示範囲を確かめます。 ### 代理権を確認できない人からの請求 患者さんの同僚を名乗る人が、本人は入院中で来られないので代わりにカルテを受け取りたいと申し出た場合です。委任状など、代理権を確認できる資料は持っていません。 この場合の問題は、弁護士資格がないことではなく、本人から依頼された人かどうかを確認できないことです。個人情報保護法に基づく開示請求では、本人が委任した代理人が、必ず弁護士でなければならないわけではありません。 名乗った内容だけで診療記録を渡さず、委任状などの提出を案内し、本人確認と代理権の確認を行います。本人に確認する場合も、相手が示した連絡先だけを頼りにせず、医療機関が把握している連絡先などを用いることが考えられます。 生命や身体の保護のために緊急の情報提供が必要な場面は、通常の開示請求とは別に検討します。緊急だと言われただけで記録全体を渡すのではなく、法令上の要件と必要な情報の範囲を確認することになります。 以上は基本的な整理です。請求の根拠、患者さんの意思、代理権や記録の内容など、個別の事情によって対応は異なります。 事例集(4)(今後公開予定)では、裁判所や公的機関、その他の第三者からの請求を取り上げます。 #### カルテ開示請求対応ガイド 事例集 目次 - [[カルテ開示請求対応ガイド はじめに|本編目次]] - [[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(1)|事例集(1)患者本人からの請求]] - [[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(2)|事例集(2)家族・未成年者・遺族の請求]] (公開日:2026年10月30日 文責:弁護士鈴木沙良夢)