## カルテ開示請求対応ガイド 事例集(4)
[[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(3)|前回]]は、代理人や弁護士、保険会社からの請求を取り上げました。今回は、裁判所からの要請や成年後見人からの請求、その他の第三者への情報提供を考えます。以下は、対応の考え方を説明するための架空の例です。
### 裁判所から診療記録の提出を求められた場合
裁判所から、患者さんの診療記録に関する書類が届いた場合です。
まず、文書提出命令なのか、文書送付嘱託なのか、証拠保全の手続に関するものなのかを確認します。裁判所から届いたというだけで、手続や効力をすべて同じに扱うことはできません。
民事訴訟法220条は文書提出義務を定め、223条は裁判所による文書提出命令を定めています。提出義務や対象範囲を確認したうえで命令に対応する必要がありますが、守秘義務が常に無関係になるという意味ではありません。
例えば、220条4号には、職業上の秘密などに関する除外事由が定められています。また、223条1項は、取り調べる必要がない部分や提出義務が認められない部分を除いて提出を命じることを認めています。提出義務を争う理由がある場合には、弁護士と相談し、裁判所の手続の中で対応することになります。
他の患者さんの情報が混在しているときも、医療機関の判断だけで原本を変更してはいけません。対象外と考える部分とその理由を裁判所に伝え、提出範囲や写しのマスキング方法を確認します。
証拠保全は、後では証拠を使うことが難しくなる事情がある場合に、あらかじめ証拠調べを行う手続です。単に記録一式を渡せばよいと考えず、決定内容と実施方法を確認します。詳しくは[[カルテ開示請求対応ガイド (8)|(8)]]をご覧ください。
### 成年後見人からの請求
患者Wさんの成年後見人から、カルテ開示請求があった場合です。
成年後見人は本人の法定代理人として開示を求めることができます。登記事項証明書などで現在の資格と請求者の本人確認を行い、開示範囲や非開示とすべき事情の有無を検討します。法定代理人からの請求であっても、第三者の権利利益などへの配慮は必要です。
保佐人や補助人の場合には、その肩書だけで必要な代理権があるとは限りません。審判書や登記事項証明書などで、付与された権限の内容を確認する必要があります。
権限が不明確なときは、そのまま記録を渡すのではなく、請求の根拠と適用される開示手続を確かめます。本人自身による請求や、本人が有効に委任できる場合の代理人による請求など、別の方法が利用できるかも検討します。必要に応じ、代理権付与の手続について確認することも考えられます。
### 他の患者さんからの問い合わせ
同じ病室に入院していた人から、別の患者さんの治療内容を知りたいと尋ねられた場合です。
同じ病室だったという関係だけでは、その人の診療情報を受け取る権限はありません。本人の同意や法令上の根拠がない限り、個別の診療内容は伝えられないと説明します。
民間の医療機関では、個人情報保護法27条により、個人データの第三者提供には原則として本人の同意が必要です。法令に基づく場合などの例外もありますが、単に知りたいという希望だけで例外に当たるものではありません。医療従事者の守秘義務にも留意します。
一般的な治療法について説明することは考えられます。ただし、名前を伏せても、病室や入院時期、病状の組合せから特定の患者さんの情報だと分かる説明にならないようにします。
### 研究機関からのデータ提供要請
大学の研究チームから、疫学研究のために患者データを提供してほしいと依頼された場合です。
最初に確認するのは、どのデータを、何のために、誰へ提供するかです。氏名を削除しただけで、自由に提供できる情報になるわけではありません。他の情報との照合によって本人が分かる場合もあります。
個人に関する情報に当たらない統計情報と、個人情報保護法上の匿名加工情報、仮名加工情報は区別する必要があります。匿名加工情報には加工基準や提供時の義務があり、仮名加工情報にも第三者提供の制限があります。「匿名化済み」という名称だけで判断することはできません。
個人データの第三者提供では本人の同意が原則ですが、学術研究などについて法令上の例外が認められる場合もあります。大学からの依頼であることだけで例外になるわけではなく、提供先、利用目的、本人の権利利益への影響など、該当する規定の要件を確認します。
さらに、[人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針](https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html)の適用範囲を確認します。必要な倫理審査、機関の許可、説明・同意や情報公開などの手続は、研究とデータの種類によって異なります。倫理審査を受けていれば個人情報保護法上も当然に提供できる、という関係ではありません。
研究計画と提供の根拠を確認し、提供する情報を必要な範囲に絞ります。保管方法、アクセス権限、再提供の取扱いなども、提供前に整理しておくことが大切です。
以上は基本的な考え方です。医療機関に適用される法令、請求の根拠、情報の内容など、個別の事情によって対応は異なります。
事例集(5)(今後公開予定)では、特殊なケースや情報管理に関する事例を取り上げます。
#### カルテ開示請求対応ガイド 事例集 目次
- [[カルテ開示請求対応ガイド はじめに|本編目次]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(1)|事例集(1)患者本人からの請求]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(2)|事例集(2)家族・未成年者・遺族の請求]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド 事例集(3)|事例集(3)代理人・弁護士・保険会社の請求]]
(公開日:2026年10月31日 文責:弁護士鈴木沙良夢)