## カルテ開示請求対応ガイド (4) ###  患者さん本人からの請求 [[カルテ開示請求対応ガイド (3)|前回]]は、開示の可否の検討と、実際の開示の進め方についてお話ししました。今回は、請求者の立場ごとに、対応のポイントをもう少し掘り下げて見ていきたいと思います。 まず、患者さん本人からの請求です。これは最もシンプルなケースで、本人確認ができれば原則として開示に応じることになります。[[カルテ開示請求対応ガイド (1)|(1)]]でご紹介した例外事由に該当しない限り、基本的にはそのまま手続きを進めて差し支えありません。 ここで一点お伝えしておきたいのが、開示請求の理由の説明を求めないということです。患者さんの中には、「セカンドオピニオンを受けたい」「治療経過を自分で確認したい」といった理由のほかに、「医療ミスがあったのではないか」という疑いから請求される方もいらっしゃいます。しかし、理由がどのようなものであっても、本人からの請求である以上、開示義務に変わりはありません。「訴訟に使われるかもしれないから」という理由で開示を渋ることは、かえって不信感を招き、紛争を深刻化させるおそれがあります。 むしろ、誠実に開示し、必要に応じて主治医から丁寧な説明を行うことで、患者さんの疑問や不安が解消され、トラブルに至らないケースも少なくありません。開示請求は、患者さんとの信頼関係を見つめ直す機会でもあると捉えていただければと思います。 ###  ご家族からの請求 ご家族からの請求は、患者さん本人からの請求に比べて、確認すべき事項が多くなります。 [[カルテ開示請求対応ガイド (2)|(2)]]でもお話ししたように、厚生労働省の指針では、本人に代わって開示を求め得る者として、法定代理人や、本人から代理権を与えられた親族などが挙げられています。ご家族が「本人の代わりに来た」とおっしゃる場合には、委任状等により代理権が確認できるかどうか、あるいは法定代理人としての資格があるかどうかを確認することになります。 実務上よくあるのは、入院中の患者さんのご家族が「本人が動けないので代わりに」と窓口に来られるケースです。このような場合、患者さん本人に意思確認ができる状態であれば、請求した人と開示する情報の範囲について、本人の意思を確認する必要があります。 一方、注意が必要なのは未成年の患者さんの場合です。親権者は法定代理人として開示を請求する権利がありますが、DVが疑われるケースなど、開示が子どもの安全を脅かすおそれがある場合には、例外的に開示を制限すべき場面もあります。このような事案では、児童相談所や弁護士など外部の専門家と連携して判断することが重要です。 ###  弁護士・保険会社からの請求 弁護士や保険会社からの請求では、委任状や同意書の確認が特に重要になります。 弁護士からの請求の場合、委任状等により患者さん本人からの代理権を確認できるかはもちろんのこと、[[カルテ開示請求対応ガイド (2)|(2)]]でもお話ししたように、委任の範囲が開示請求を含んでいるか、患者さん本人がその範囲の開示に実際に同意しているかについても確認する必要があります。 保険会社からの請求では、包括同意書が添付されていることがあります。保険契約の際に患者さんが署名した同意書が、「当社が必要と認める一切の医療情報」といった広範な内容になっていることも少なくありません。このような包括的な同意書については、患者さん本人がその内容を十分に理解したうえで署名しているかどうか、疑問が残ることもあります。同意書の有無だけで判断せず、提供先・目的・情報の範囲について本人の意思を確認します。確認方法は、本人に過重な負担を課さないよう配慮します。 なお、弁護士を通じた請求が訴訟の準備を目的としている場合であっても、開示義務に変わりはありません。理由によって対応を変えることは適切ではなく、あくまでも通常の手続きに沿って対応することが大切です。 ###  遺族からの請求 遺族からの請求については、[[カルテ開示請求対応ガイド (2)|(2)]]で基本的な枠組みをご紹介しましたが、もう少し掘り下げておきたいと思います。 厚生労働省の「[診療情報の提供等に関する指針](https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0623-15m.html)」は、患者さんが死亡した際には遅滞なく遺族へ診療情報を提供すべきものとし、遺族からの診療記録の開示請求にも原則として応じるべきとしています。請求できる遺族の範囲としては、配偶者、子、父母及びこれに準ずる者(これらの方の法定代理人を含みます)が挙げられており、故人との関係を証明する書類(戸籍謄本など)の提出を求めて確認します。 ただし、遺族への開示にはいくつかの配慮が必要です。まず、故人が生前にカルテ開示について拒否の意思を示していた場合には、その意思を尊重すべきとされています。また、開示が故人の名誉やプライバシーを不当に侵害するおそれがある場合にも、慎重な判断が求められます。 実務上特に悩ましいのは、遺族間で意見が対立している場合です。たとえば、相続をめぐって対立している遺族の一方から開示を求められた場合、もう一方の遺族の利益にも配慮する必要があります。このようなケースでは、医療機関が単独で判断を下すのは難しいため、弁護士等の専門家への相談が重要になります。 ![carte-disclosure-requester-types](../picture/carte-disclosure-requester-types.svg) 次回(公開予定)は、カルテ開示にまつわる実務上の注意点について、もう少し具体的にお話ししていきます。 ####  カルテ開示請求対応ガイド 目次 - [[カルテ開示請求対応ガイド はじめに|はじめに]] - [[カルテ開示請求対応ガイド (1)|(1)カルテ開示請求の基本]] - [[カルテ開示請求対応ガイド (2)|(2)開示請求の初動と請求者確認]] - [[カルテ開示請求対応ガイド (3)|(3)開示の可否と実施]] (公開日:2026年10月10日 文責:弁護士鈴木沙良夢)