## カルテ開示請求対応ガイド (5)
### 開示費用の考え方
[[カルテ開示請求対応ガイド (4)|前回]]は、請求者の立場ごと(患者本人、家族、弁護士、保険会社、遺族)の対応のポイントについてお話ししました。今回は、カルテ開示にまつわる実務上の注意点をいくつか取り上げていきたいと思います。
ここでは主に民間の医療機関を想定します。公立病院などでは、開示・訂正の手続や手数料に異なる規律が適用されるため、設置主体に応じた確認が必要です。
まずは、開示にかかる費用についてです。[[カルテ開示請求対応ガイド (3)|(3)]]でもお話ししたように、コピー代や事務手数料などの実費を請求すること自体は問題ありません。個人情報保護法も、手数料の額は「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内」で定めなければならないとしています(38条2項)。
費用の内訳としては、基本手数料(請求受付・内容確認・準備作業にかかる費用)、紙のコピー代、画像データの電子媒体(CD-RやDVD-R)代、郵送料(簡易書留等)などが一般的です。
問題になりやすいのは、「実費」の範囲をどう考えるかという点です。あまりに高額な設定は、患者さんの権利行使を妨げるものとして問題視されるおそれがあります。一方で、実際にかかる手間やコストをまったく考慮しないわけにもいきません。設定に迷う場合には、実際に要する作業や費用を整理し、医師会に相談するのも一つの方法です。近隣の料金を参考にする場合も、自院の実費との関係を説明できるようにします。いずれにしても、料金体系を明確にし、請求時に事前に説明しておくことが、トラブル予防の基本になります。
### 開示を前提としたカルテ記載
カルテ開示が広く行われるようになった現在、カルテの記載そのものについても、あらためて意識しておきたいことがあります。「カルテは患者さんの目に触れるものだ」という前提で記載することが、日常の診療においても大切になってきています。
具体的には、客観的な事実(検査結果や患者さんの訴えなど)と、医師としての判断(診断、治療方針の理由など)を明確に区別して記載することが望まれます。また、患者さんの発言はなるべくそのまま記録し、感情的な表現や不必要な主観は避けるようにしたいものです。
電子カルテ特有の注意点もあります。テンプレートのコピー&ペーストを安易に繰り返すと、実際の診療内容とカルテの記載に齟齬が生じることがあります。また、[[カルテ開示請求対応ガイド (1)|(1)]]でもお話ししたように、付箋機能やメモ機能に記録された情報も開示対象になり得ますので、これらの機能を使う際にも「見られることがある」という意識を持っておくことが大切です。
### 訂正・追記を求められたとき
開示の後に、患者さんから「カルテの内容が事実と違う」として訂正を求められることがあります。
[個人情報保護法](https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057)は、保有個人データの内容が事実でない場合に、本人が訂正等を請求できる権利を認めています(34条)。請求を受けた場合は、利用目的の達成に必要な範囲で遅滞なく調査し、その結果に基づいて対応します。たとえば、検査値の転記ミスや日付の誤りなど、医学的に明らかな誤記があれば、当然訂正すべきです。一方、診断名や所見など医師の専門的判断に関わる部分については、患者さんとの評価の違いだけで書き換える必要はありません。ただし、診断名や所見に関する請求でも、転記ミスや判断の前提となる事実の誤りが指摘されていれば、その内容を確認します。
訂正する場合には、元の記載を残したうえで、訂正した者・内容・日時・理由を明記するのが原則です。訂正した場合も、訂正しないと決めた場合も、本人に遅滞なく通知する必要があります。訂正しない場合は理由を説明するよう努めなければならず、医療・介護分野のガイダンスでは文書による説明を基本としています。患者さんの意見と医療者の見解が異なる場合には、患者さんの申し出内容を別途記録として残すことで、双方の見解を尊重する対応も考えられます。
なお、「カルテを全部消去してほしい」という要求を受けることもまれにありますが、[医師法](https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201)24条はカルテの5年間保存を義務づけていますので、保存期間内のカルテを患者さんの要望だけで消去することはできません。このような場合には、法的な制約を丁寧にご説明することが大切です。
### 院内体制の整備に向けて
ここまで、カルテ開示請求の基本的な考え方から、対応の手順、請求者ごとのポイント、そして実務上の注意点まで、さまざまなテーマを取り上げてきました。最後に、これらを踏まえた院内体制の整備について触れておきたいと思います。
カルテ開示請求への対応を属人的なものにしないためには、院内で統一した対応マニュアルを作成しておくことが有効です。マニュアルに盛り込みたい内容としては、対応窓口と担当者の役割分担、開示対象の範囲の基準、費用の算定根拠、マスキングの判断基準、開示請求書や委任状のひな形などが挙げられます。
あわせて、スタッフへの教育も重要です。窓口で最初に請求を受けるスタッフが適切に案内できるかどうかで、その後の対応のスムーズさが大きく変わります。個人情報保護法の基本的な考え方や、院内の対応フローについて、定期的に研修の機会を設けることが望ましいでしょう。
法改正や指針の改定は随時行われますので、一度作ったマニュアルも定期的に見直しが必要です。開示請求の事例を院内で共有・振り返りながら、体制を継続的に改善していく姿勢が大切です。
個別の請求への対応は、記録の内容や請求の理由などに応じて判断する必要があります。
次回(公開予定)は、カルテ改ざん疑惑への備えについてお話しします。
#### カルテ開示請求対応ガイド 目次
- [[カルテ開示請求対応ガイド はじめに|はじめに]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (1)|(1)カルテ開示請求の基本]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (2)|(2)開示請求の初動と請求者確認]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (3)|(3)開示の可否と実施]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (4)|(4)請求者別の対応ポイント]]
(公開日:2026年10月11日 文責:弁護士鈴木沙良夢)