## カルテ開示請求対応ガイド (6) ###  カルテ改ざん疑惑への備え [[カルテ開示請求対応ガイド (5)|前回]]は、開示費用の考え方やカルテ記載の注意点、訂正要求への対応、そして院内体制の整備について取り上げました。今回は、カルテ改ざん疑惑への備えをはじめ、カルテ開示をめぐるトラブルの予防についてお話しします。 カルテの内容を事実と異なるものに改ざんしてはなりません。 開示請求を受けた後に、不都合な記載を消したり、当時の記録に見せかけて書き加えたりすることも同様です。 誤記の訂正や必要な追記は、元の記録と変更の経緯が分かる正規の方法で行います。 SNSや口コミサイトで、カルテの改ざんを疑う書き込みが広まることも考えられます。たとえ事実に基づかない情報であっても、一度広まると医療機関の信頼を大きく損なうおそれがあります。こうした事態を防ぐためにも、日頃からカルテの記録管理を徹底しておくことが重要です。 電子カルテでは、アクセスログや修正履歴を保存・確認できるよう、システムの設定と運用を確認します。 アクセスの記録と内容の修正履歴は、同じものではありません。どの情報が記録され、いつまで保存されるかを確認しておきます。 記録を訂正する場合は、[[カルテ開示請求対応ガイド (5)|(5)]]のとおり、元の記載を残します。 訂正内容、訂正の日時、記載者、理由を明らかにし、変更の経緯を後から確認できるようにします。 ###  開示請求と訴訟の関係 「カルテを開示すると訴訟を起こされるのではないか」──これは多くの先生方が感じる不安だと思います。しかし、[[カルテ開示請求対応ガイド (4)|(4)]]でもお話ししたように、開示請求の理由が何であれ、患者さん本人からの請求には原則として応じる義務があります。訴訟を恐れて開示を渋ることは、法的にも実務的にも望ましくありません。 カルテの開示は、患者さんが自分の診療情報を知るための手続きです。 必要な説明を添えることは、記載の意味や診療上の判断を理解してもらう助けになります。 開示した後も、診療の評価や責任をめぐる意見の違いが残ることはあります。 開示の判断は、紛争を避けられるかどうかとは分け、法律上の義務と例外に沿って行います。 ###  保存期間とデータ管理の課題 [医師法](https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201)24条は、診療録(カルテ)の5年間の保存を義務づけています。病院・診療所に勤務する医師の診療録はその施設の管理者が、それ以外は診療した医師が保存義務を負います。[[カルテ開示請求対応ガイド (5)|(5)]]で触れた消去要求の場面でも、この保存義務が重要な意味を持ちます。 ここで注意しておきたいのは、保存期間を過ぎたカルテであっても、医療機関が現に保有し、開示等を行う権限を有する保有個人データに当たる以上、開示請求があれば対応する必要があるという点です。「5年過ぎたから開示しなくてよい」ということにはなりません。 システム更新の際は、過去の診療情報を閲覧・出力できるか確認します。 保有個人データに当たる記録については、旧システムのデータでも、原則として開示請求への対応が必要です。 データ移行の手順、保存期間、旧データを取り出す担当者を決めておくと、請求時の確認が進めやすくなります。 ここで述べた保有個人データの開示は、主に民間の医療機関を想定しています。公立病院などでは適用される開示手続が異なるため、設置主体に応じて確認します。個別の開示の可否は、記録の内容や法定の例外に照らして判断します。 ###  カルテ開示を「信頼構築の機会」に カルテ開示は、ともすると「面倒な手続き」「リスクのある対応」と捉えられがちです。しかし、見方を変えれば、患者さんとの信頼関係を見つめ直し、日常の診療やカルテ記載を振り返るきっかけにもなり得るものです。「患者さんに見られても問題のないカルテを書く」という意識が、結果的には医療の質の向上にもつながるのではないでしょうか。 次回(公開予定)は、マスキング(黒塗り)や守秘義務、録音・録画の扱いなど、開示対応の周辺テーマを取り上げます。 ####  カルテ開示請求対応ガイド 目次 - [[カルテ開示請求対応ガイド はじめに|はじめに]] - [[カルテ開示請求対応ガイド (1)|(1)カルテ開示請求の基本]] - [[カルテ開示請求対応ガイド (2)|(2)開示請求の初動と請求者確認]] - [[カルテ開示請求対応ガイド (3)|(3)開示の可否と実施]] - [[カルテ開示請求対応ガイド (4)|(4)請求者別の対応ポイント]] - [[カルテ開示請求対応ガイド (5)|(5)開示にまつわる実務上の注意点]] (公開日:2026年10月12日 文責:弁護士鈴木沙良夢)