## カルテ開示請求対応ガイド (7)
### マスキング(黒塗り)の実務
[[カルテ開示請求対応ガイド (6)|前回]]は、カルテ改ざん疑惑への備えや開示請求と訴訟の関係、保存期間とデータ管理の課題について取り上げました。今回は、開示対応の周辺テーマとして、マスキング(黒塗り)、守秘義務、録音・録画の扱いについてお話しします。
[[カルテ開示請求対応ガイド (3)|(3)]]でも触れたとおり、カルテには患者さん本人以外の個人情報が含まれていることがあります。同室の患者さんの名前、ご家族からの相談内容、あるいは家族から提供された情報に基づく診断メモなど、第三者のプライバシーに関わる情報が記録されることがあります。ただし、第三者の情報があるだけで一律に黒塗りにするものではありません。開示により本人や第三者の権利利益を害するおそれなど、法定の不開示事由に当たるかを個別に検討します。該当する場合は、必要な部分をマスキング(黒塗り)し、それ以外を開示します。
医療従事者の氏名についても、個人情報であるという理由だけで一律に不開示にはできません。[個人情報保護委員会のガイダンス](https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/)は、診療録には患者さんと作成した医師の双方の保有個人データという面があると説明しています。その二面性だけを理由に、患者さん本人への開示を拒むことはできないとされています。公立病院などでは適用される開示手続が異なるため、設置主体に応じた確認も必要です。
マスキングの作業は手間がかかりますが、患者さんの知る権利と第三者のプライバシーを両立させるための重要なステップです。院内で「誰が」「どのような基準で」マスキングを行うのかを明確にし、ダブルチェック体制を整えておくことが望まれます。不適切なマスキングがかえって「何かを隠している」という疑念を招くことがないよう、基準の統一と記録の保存を徹底しましょう。
### 守秘義務との関係
カルテ開示と医療従事者の守秘義務は、表裏一体の関係にあります。医師等には[刑法](https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045)134条、保健師・看護師・准看護師には保健師助産師看護師法42条の2などが適用されます。これらは、正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らすことを禁じています。ここで確認しておきたいのは、患者さん本人からの開示請求に応じることは、守秘義務に反するものではないという点です。患者さん本人に対してその方自身の診療情報を開示することは、守秘義務を理由に拒むものではありません。ただし、記録に含まれる第三者の秘密には、前述のとおり別途配慮が必要です。
一方、開示手続きの過程で患者さんの情報に触れる担当者の範囲には注意が必要です。開示対応に関わるスタッフを限定し、アクセス権限を厳格に管理することで、情報漏洩のリスクを最小化する工夫が求められます。電子カルテ環境下では、アクセスログの管理やシステム的な制限も重要な対策となります。
また、守秘義務は退職後も継続します。退職時に誓約書を取り交わしたり、守秘義務について改めて周知徹底したりするなど、退職者への対応も忘れてはなりません。
### 録音・録画の扱い
患者さんやご家族が医師との面談を録音・録画することもあります。こうした録音・録画とカルテ開示請求との関係についても、触れておきたいと思います。
医療機関が組織的に録音・録画を行い、診療の一部としてそのデータを保存している場合には、そのデータも開示請求の対象になり得ます。本人を識別できるか、検索できる形で管理されているか、医療機関が開示等の権限を持つかなどにより判断します。一方、患者さんだけが保有する私的な録音・録画は、医療機関に対する開示請求の対象にはなりません。患者さんから提供を受けて医療機関が保存・管理している場合は、改めて判断する必要があります。
院内での録音・録画については、あらかじめポリシーを明確にしておくことが望ましいでしょう。たとえば、「録音についてはご希望があれば対応いたしますので、事前にお申し出ください」といったルールを設けておくことで、無断録音をめぐるトラブルの予防につながります。
個別の対応は、情報の内容や保有状況、本人・第三者への影響により異なります。
次回(公開予定)は、開示請求に関連する証拠保全の手続きについてお話しし、シリーズ全体のまとめをお伝えします。
#### カルテ開示請求対応ガイド 目次
- [[カルテ開示請求対応ガイド はじめに|はじめに]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (1)|(1)カルテ開示請求の基本]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (2)|(2)開示請求の初動と請求者確認]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (3)|(3)開示の可否と実施]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (4)|(4)請求者別の対応ポイント]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (5)|(5)開示にまつわる実務上の注意点]]
- [[カルテ開示請求対応ガイド (6)|(6)トラブルの予防]]
(公開日:2026年10月13日 文責:弁護士鈴木沙良夢)