## 医療法人法入門 (10) ### 理事会について [[医療法人法入門 (9)|前回]]は、理事長の選出と代表権についてお話をしました。 今回は、理事長を選出し、法人の業務執行を決定する理事会について解説します。 [[医療法人法入門 (4)|(4)]]で述べたとおり、理事会は医療法人の日常的な業務に関する意思決定を行う機関です。 社員総会が年に数回しか開催されないのに対し、理事会はより頻繁に開催され、医療法人の実務的な運営を担うべきだとされています。 しかしながら、実際には、「理事会は行われていない。」という医療機関も多く見受けられます。 ### 理事会の組織と職務 ``` 医療法第46条の7第1項 理事会は、全ての理事で組織する。 ``` 理事会は、医療法人の全ての理事で構成されます。特定の理事だけで理事会を構成するということはできません。 理事会の職務は、次のように定められています。 ``` 医療法第46条の7第2項 理事会は、次に掲げる職務を行う。 一 医療法人の業務執行の決定 二 理事の職務の執行の監督 三 理事長の選出及び解職 ``` まず第一に、「業務執行の決定」です。社員総会の決議を要する特に重要な事項を除き、医療法人の業務に関する決定は理事会が行います。 第二に、「理事の職務の執行の監督」です。理事長を含む各理事が適切に職務を遂行しているかを監督する役割を理事会が担っています。 第三に、「理事長の選出及び解職」です。[[医療法人法入門 (9)|(9)]]で述べたとおり、理事長は理事会が選出し、理事会が解職します。 ### 理事会で決めなければならない事項 理事会は、一定の重要な業務執行の決定をすることになっており、これは理事個人に委任することができないとされています。 ``` 医療法第46条の7第3項 理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。 一 重要な資産の処分及び譲受け 二 多額の借財 三 重要な役割を担う職員の選任及び解任 四 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止 (以下略) ``` 例えば、医療法人が高額な医療機器を購入したり、不動産を売却したりする場合には「重要な資産の処分及び譲受け」に該当し、理事会で決定しなければなりません。 理事長が独断で決めることはできないとされています。 また、銀行から多額の融資を受ける場合は「多額の借財」に該当しますし、事務長や看護部長などの重要ポストの人事も、理事会の決定事項となります。 これらの事項を理事長や特定の理事だけで決めてしまった場合、その決定の有効性が問題となることがあります。 ただ、理事会で決定してある程度の裁量を理事長に委任することまで禁止されているわけではない、という考え方が有力だと考えます。理事会において、「詳細については理事長に一任」という判断がなされること自体はよく見受けられます。 ### 理事会の招集 理事会の招集については、医療法第46条の7の2により、一般法人法第91条から第98条までの規定(一部を除く)が準用されています。 法律上の原則としては、各理事が理事会を招集することができます。 ただし、定款又は理事会の決議で招集権者を定めた場合には、その者が招集するとされています。 実務上は、多くの医療法人が定款で理事長を招集権者と定めています。現行の厚労省社団医療法人定款例でも、各理事が招集する例と並んで、理事長を招集権者とする例が示されています。 ``` 厚労省社団医療法人定款例(理事長を招集権者とする例・要旨) 第36条 理事会は、理事長が招集する。 第37条 理事会の議長は、理事長とする。 ``` なお、理事長以外の理事であっても、招集権者に対して理事会の招集を請求することは可能です。この請求があった日から5日以内に、請求の日から2週間以内の日を理事会の日とする招集通知が発せられない場合には、請求した理事は自ら理事会を招集できるとされています(一般法人法第93条の準用)。 招集通知については、理事会の日より一定期間前(一般法人法の準用により原則1週間前、定款で短縮可能)に各理事及び各監事に対して通知を発しなければなりません。 理事及び監事の全員の同意があれば、招集手続きを省略して理事会を開催することも可能です(医療法第46条の7の2第1項で準用する一般法人法第94条第2項)。 ![board-of-directors-meeting](../picture/board-of-directors-meeting.svg) ### 理事会の議事と決議 理事会の議事は、議決に加わることのできる理事の過半数が出席し、その過半数で決するのが原則です。定款でこの割合を上回るように加重することはできますが、緩和することはできません(医療法第46条の7の2第1項で準用する一般法人法第95条第1項)。 理事会の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができません(医療法第46条の7の2第1項で準用する一般法人法第95条第2項)。 例えば、理事と医療法人との間の利益相反取引について理事会で承認の決議を行う場合、当該取引の当事者である理事は議決に参加できません。 ### 理事会への監事の出席 ``` 医療法第46条の8の2第1項 監事は理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。 ``` 理事会には監事も出席しなければなりません。これは単に出席するだけでなく、必要があれば意見を述べる義務まで課されています。監事が理事会に出席することにより、理事の業務執行を監視する機能が果たされるという仕組みです。 ### 理事会の議事録 理事会の議事録についても、一般法人法の準用により作成が義務付けられています(医療法第46条の7の2第1項で準用する一般法人法第95条第3項)。 議事録には、理事会の日時・場所、議事の経過の要領及びその結果、出席した役員の氏名などを記載します。これらの記載事項は厚生労働省令で定められています。出席した理事及び監事は、議事録に署名又は記名押印しなければなりません(前掲の一般法人法第95条第3項)。 理事会の議事録は、社員総会の議事録と同様に、理事会が実際に開催されたことや決議の内容を証明する重要な書類です。 ### 理事会と社員総会の関係 ここで改めて、理事会と社員総会の関係を整理しておきましょう。 社員総会は医療法人の最高意思決定機関であり、定款の変更、役員の選解任、事業計画や収支予算の決定など、法人の根幹に関わる事項を決議します。 理事会は、社員総会で決められた大枠の方針に基づいて、具体的な業務執行の決定を行います。 つまり、社員総会が「大きな方向性」を決め、理事会が「日々の運営」を決める、という役割分担になっています。このことは[[医療法人法入門 (4)|(4)]]でも述べましたが、実務的にはこの境界線があいまいになっている医療法人も少なくありません。 しかし、社員総会で決めるべき事項を理事会だけで決めてしまったり、理事会で決めるべき事項を理事長個人で決めてしまったりすると、後から手続き上の問題を指摘されるおそれがあります。 それぞれの機関の役割を正しく理解し、適切な手続きを踏むことが健全な法人運営の基本です。 次回は、医療法人の監事について解説します。 (公開日:2026年7月24日 文責:弁護士鈴木沙良夢)