## 医療法人法入門 (7)
### 社員の入社と退社について
[[医療法人法入門 (6)|前回]]は、社員総会の議事の進め方や議決方法、議事録の作成について話をしました。
今回は、社員総会の構成員である社員の地位がどのように取得され、どのように失われるのかについて解説します。
[[医療法人法入門 (3)|(3)]]で述べたとおり、医療法人の「社員」は従業員のことではなく、社員総会の構成員のことを指します。社員は一人一票の議決権を持ち、社員総会を通じて医療法人の重要事項を決定する権限を持っています。そのため、誰が社員であるのかは、医療法人の運営にとって極めて重要な問題です。
### 社員の入社
社員の地位を新たに取得することを「入社」といいます。
[[医療法人法入門 (3)|(3)]]で述べたとおり、医療法人の設立時に社員となる場合のほか、設立後に新たに入社するケースがあります。
実は、医療法には社員の入社について直接的に定めた規定はほとんどありません。医療法第44条第2項第8号で、定款の記載事項として「社員総会及び社員たる資格の得喪に関する規定」を掲げているにとどまり、入社の具体的な要件や手続きは各医療法人の定款に委ねられています。
現行の厚労省社団医療法人定款例(最終改正平成30年3月30日)では、入社について次のような規定が設けられています。
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厚労省社団医療法人定款例第14条第1項
本社団の社員になろうとする者は、社員総会の承認を得なければならない。
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つまり、入社には社員総会の承認が必要とされています。
[[医療法人法入門 (4)|(4)]]で見たとおり、「社員の入社」は社員総会の議決事項に含まれているのが一般的です。新しい社員を迎え入れるかどうかは、既存の社員が社員総会で判断することになります。
なお、法人によっては定款で理事会や理事長の承認を経る旨を定めている場合もありますので、具体的な手続きは自法人の定款を確認する必要があります。
社員の入社は医療法人の意思決定構造に直接影響を与えます。新たな社員が加わることで議決権のバランスが変わりますので、誰を社員として受け入れるかは慎重に検討すべき事項です。
### 社員の退社
社員の地位を失うことを「退社」といいます。退社には、社員自身の意思による任意退社と、一定の事由によって当然に退社する法定退社、そして社員総会の決議による除名があります。
### 任意退社
モデル定款では、任意退社について次のように定められています。
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モデル定款第16条
やむを得ない理由のあるときは、社員は、その旨を理事長に届け出て、
退社することができる。
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文言上は「やむを得ない理由のあるとき」という限定が付されていますが、厚生労働省の通知(平成19年3月30日付医政局長通知)では、「社員の入社及び退社は自由であるようにすること」とされており、不当に退社を制限するような運用は認められないと考えられています。
社員がいつでも自由に退社できるということは、裏を返せば、重要な時期に社員が退社してしまい定足数を満たせなくなるおそれもあるということです。実務的には、社員構成の管理にも配慮が必要です。
### 法定退社
任意退社とは別に、一定の事由が発生した場合に当然に社員の地位を失う場合があります。
モデル定款では次のように規定されています。
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モデル定款第15条第1項
社員は、次に掲げる理由によりその資格を失う。
(1) 除名
(2) 死亡
(3) 退社
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このうち(1)の除名は後述する社員総会の議決によるもの、(3)の退社は先ほどの任意退社によるものです。(2)の死亡は、社員本人の意思とは関係なく、事実の発生によって当然に社員の資格を失うものです。
なお、社員の地位は一身専属的なもの(その人だけに属するもの)ですので、社員が死亡しても、その地位は相続されません。これは株式会社における株式が相続の対象となるのとは大きく異なる点です。

### 社員の除名
退社の中でも特に重要で、紛争に発展しやすいのが除名です。
[[医療法人法入門 (4)|(4)]]でも触れましたが、除名は社員総会の決議事項です。
モデル定款では、除名について次のように規定されています。
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モデル定款第15条第2項
社員であって、社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し
又は品位を傷つける行為のあった者は、社員総会の議決を経て
除名することができる。
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除名はある社員の意に反してその地位を奪う行為ですので、慎重な手続きが求められます。除名の要件を満たしているかどうか、手続きが正しく行われたかどうかが、後から裁判で争われることも珍しくありません。
除名に必要な議決要件についても注意が必要です。先ほど述べたとおり、定款によって「総社員の過半数の出席、出席社員の過半数の賛成」としている法人もあれば、「総社員の3分の2以上の出席、出席社員の3分の2以上の賛成」と加重している法人もあります。自法人の定款でどのような議決要件が定められているかを確認しておくことが大切です。
### 社員の権利と義務
社員の権利としては、社員総会における議決権が最も重要です。この議決権について、医療法は次のように定めています。
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医療法第46条の3の3第1項
社員は、各一個の議決権を有する。
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出資額の多少にかかわらず、社員は一人一票の議決権を持ちます([[医療法人法入門 (3)|(3)]]でも触れました)。また、社員総会において理事や監事に説明を求める権利や、臨時社員総会の招集を請求する権利なども認められています。
一方、社員の義務については、医療法に明文の規定は少ないのですが、定款で社員の義務を定めていることがあります。例えば、「社員総会に出席する義務」や「法人の目的に反する行為をしない義務」などが定款で規定されていることがあり、これらの義務に違反した場合には除名の事由となることもあります。
### 社員名簿の重要性
社員の入社・退社に関連して、社員名簿の管理も重要です。
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医療法第46条の3の2第1項
社団たる医療法人は、社員名簿を備え置き、社員の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。
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社員名簿は、現在誰が社員であるのかを明らかにするための基本的な書類です。社員の入社・退社があった場合には、速やかに名簿を更新する必要があります。社員名簿が整備されていないと、社員総会の定足数の算定や議決権の行使に支障が生じるおそれがあります。
理事や監事といった役員の場合には、選解任毎に都道府県等への届出が必要になるのですが、社員についてはそのような届出がないため、社員名簿の整理をおろそかにしていると極端な話「誰が社員だかわからない」といった事態も生じかねません。
社員の地位は、医療法人の意思決定に直結する極めて重要なものです。入社・退社・除名のいずれについても、定款の定めに従って適正な手続きを行うことが、後のトラブルを防ぐための基本と言えるでしょう。
[[医療法人法入門 (8)|次回]]は、社員総会によって選任される理事について解説します。
(公開日:2026年7月20日 文責:弁護士鈴木沙良夢)