## 医療法人法入門 (8) ### 理事について [[医療法人法入門 (7)|前回]]は、社員の入社と退社について解説しました。 今回からは、医療法人の業務執行を担う理事について解説します。 これまでの記事では、社員総会が医療法人の最高意思決定機関であり、社員がその構成員として重要な権限を持っていることをお話ししてきました。しかし、社員総会は常時開催されているわけではありません。日々の法人運営は、社員総会で選任された理事が担っています。 ### 理事の員数と資格 まず、理事の人数から見てみましょう。 ``` 医療法第46条の5第1項 医療法人には、役員として、理事三人以上及び監事一人以上を置かなければならない。ただし、理事について、都道府県知事の認可を受けた場合は、一人又は二人の理事を置けば足りる。 ``` 原則として理事は3人以上が必要です。 例外として、都道府県知事の認可を受ければ、1人又は2人でも構わないとされています。ただし、少なくとも私は、この例外が認められた例を実際に見たことはありません。 理事の資格については、医療法人の評議員の欠格事由(第46条の4第2項)が理事にも準用されています(第46条の5第5項)。具体的には、法人は理事になれないこと、心身の故障のため職務を適正に執行できない者は理事になれないこと、医事に関する法律により罰金以上の刑に処せられた者は一定期間理事になれないことなどが定められています。 ### 管理者は理事に加えなければならない 理事に関する独特の規定として、次のものがあります。 ``` 医療法第46条の5第6項 医療法人は、その開設する全ての病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(指定管理者として管理する病院等を含む。)の管理者を理事に加えなければならない。 ``` つまり、病院や診療所の管理者(いわゆる「管理医師」や「院長」)は、原則として医療法人の理事にならなければなりません。 医療法人が複数の施設を運営している場合でも、原則として全ての管理者を理事に加える必要があります(ただし、複数施設を開設する場合には、都道府県知事の認可を受けて管理者の一部を理事に加えないことも可能ですが、例外的です)。 また、管理者の職を退いた場合には、理事の職も失うとされています(同条第7項)。つまり、院長を辞めれば理事でもなくなるということです。 ### 理事の選任と解任 理事は、社員総会の決議によって選任されます。 ``` 医療法第46条の5第2項 社団たる医療法人の役員は、社員総会の決議によつて選任する。 ``` そして解任についても、社員総会の決議で行うことができます。 ``` 医療法第46条の5の2第1項 社団たる医療法人の役員は、いつでも、社員総会の決議によつて解任することができる。 ``` 注目すべきは「いつでも」という文言です。理事の任期中であっても、社員総会が解任を決議すれば理事を辞めさせることができます。 そして、辞めさせること自体は特に理由がなくてもできる、と考えられています。 ただし、正当な理由なく解任された場合には、解任された理事は医療法人に対して損害賠償を請求できるとされています(同条第2項)。 つまり、解任の可否には理由は問われないけれども、正当な理由がない解任の場合には損害賠償の話になる、というわけです。 このように、理事の選任権と解任権が社員総会にあることが、社員総会が最高意思決定機関であると言われる理由の一つです。 ### 理事の任期 ``` 医療法第46条の5第9項 役員の任期は、二年を超えることはできない。ただし、再任を妨げない。 ``` 理事の任期は最長2年です。多くの医療法人では、定款で任期を2年としています。 ただし再任は可能ですので、任期満了後に改めて社員総会で選任されれば、引き続き理事を務めることができます。 なお、任期の満了又は辞任によって理事が退任し、法律や定款で定めた役員の員数が欠けることとなった場合には、退任した理事は、新たに選任された理事が就任するまで、なお理事としての権利義務を有するとされています(第46条の5の3第1項)。これは、理事の空白期間が生じることによって法人運営に支障が出ることを防ぐための規定です。 ![director-duties-responsibilities](../picture/director-duties-responsibilities.svg) ### 理事の義務 理事には、法律上いくつかの重要な義務が課されています。 まず、医療法では一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)の規定が準用されており、理事は医療法人に対して忠実義務を負います(医療法第46条の6の4で準用される一般法人法第83条)。 忠実義務とは、法令・定款のほか社員総会の決議も遵守し、医療法人のために忠実にその職務を行う義務のことです。 また、理事は医療法人との間で利益相反取引を行う場合には、理事会の承認を得なければなりません(一般法人法第84条第1項の準用)。利益相反取引とは、理事個人の利益と医療法人の利益が相反するような取引のことです。 例えば、理事が自分の所有する建物を医療法人に賃貸する場合などがこれに該当します。 このような取引は理事個人に有利で法人に不利な条件で行われるおそれがあるため、理事会による監督が求められています。 さらに、理事は医療法人に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合には、直ちに監事に報告しなければなりません(第46条の6の3)。 ### 理事の責任 理事は、その任務を怠って医療法人に損害を与えたときは、医療法人に対してその損害を賠償する責任を負います(医療法第47条第1項)。 また、理事がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うことがあります(医療法第48条第1項)。 理事は単なる名誉職ではなく、法律上の義務と責任を伴う重要な地位です。 「名前を貸しているだけ」というような認識で理事に就任することは、こうした法的リスクの観点からも避けるべきでしょう。 次回は、理事の中から選出される理事長について解説します。 (公開日:2026年7月24日 文責:弁護士鈴木沙良夢)