## 医療法人法入門 (9)
### 理事長について
[[医療法人法入門 (8)|前回]]は、理事の員数・選任・義務などについてお話をしました。
今回は、理事の中から選出される理事長について解説します。
理事長は、多くの医療法人において最も存在感のある地位であり、対外的にも医療法人の「顔」として認識されています。
しかし、これまで見てきたように、医療法上の仕組みとしては社員総会が最高意思決定機関であり、社員総会で理事が選ばれ理事会が成立し、理事長はその理事会によって選出・解職される立場にあります。
理事長の権限と、その権限に対する法律上の制約を正しく理解しておくことが大切です。
### 理事長の選出
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医療法第46条の6第1項
医療法人(次項に規定する医療法人を除く。)の理事のうち一人は、理事長とし、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する。
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理事長は、理事の中から1人が選ばれます。そして原則として、医師又は歯科医師である理事の中から選出しなければなりません。
これは、医療法人が病院や診療所を運営する法人である以上、その代表者には医療に関する専門的知識を有する者が就くべきだという考えに基づいています。
ただし、都道府県知事の認可を受けた場合には、医師又は歯科医師でない理事の中から理事長を選出することも可能です(同項ただし書)。
実務上この例外が認められるケースは今となってはそれほど多くはない印象ですが、全く見ないわけではありません。
理事長の選出は、理事会の職務として位置づけられています(第46条の7第2項第3号)。同様に、理事長の解職も理事会が行います。
つまり、理事長は理事会によって選ばれ、理事会によって解職されるということです。一方で、理事そのものの選任権は社員総会にあります。
したがって、社員総会が理事を解任すれば、その理事が理事長であった場合には理事長の地位も失われることになります。

### 理事長の代表権
理事長の最も重要な権限は、医療法人を代表する権限です。
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医療法第46条の6の2第1項
理事長は、医療法人を代表し、医療法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
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「一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限」とありますので、契約の締結、訴訟の提起、届出や申請など、医療法人の業務に関するあらゆる行為を行う権限が理事長に与えられています。
例えば、医療法人が医療機器を購入する契約を結ぶ場合、土地や建物の賃貸借契約を締結する場合、あるいは銀行から融資を受ける場合など、対外的な行為は原則として理事長が医療法人を代表して行うことになります。
### 代表権の制限と善意の第三者
ここで注意が必要な規定があります。
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医療法第46条の6の2第2項
前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
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例えば、理事会の決議で「理事長が○○万円以上の契約を締結する場合には理事会の承認を要する」という制限を設けていたとしましょう。
この制限に反して、理事長が理事会の承認を得ずに高額な契約を締結してしまった場合、その制限を知らなかった取引の相手方(善意の第三者)に対しては「理事会の承認を得ていないから契約は無効だ」とは主張できないのです。
これは取引の安全を保護するための規定です。取引相手からすれば、「理事長」という肩書で契約を結んでいるのに、後から「実は内部的な承認が必要だった」と言われても困ってしまいます。そのため、法律は善意の第三者を保護しているのです。
このことは、逆に言えば、理事長が独断で行った行為であっても、相手方が善意であれば医療法人として責任を負わなければならないことを意味します。理事長の権限が大きいがゆえに、理事会による監督が重要になってくるのです。
### 理事長が欠けた場合
理事長が死亡・辞任などによって欠けた場合についても、規定が設けられています。
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医療法第46条の6の2第3項
第46条の5の3第1項及び第2項の規定は、理事長が欠けた場合について準用する。
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任期の満了や辞任によって理事長が退任した場合には、新しい理事長が選出されるまでの間、なお理事長としての権利義務を有するとされています。これは、理事長の空白期間に法人の業務が停滞することを防ぐための措置です(死亡によって欠けた場合には、次に述べる職務代行者の選任などによって対応することになります)。
理事長が欠けたことによって業務が遅滞し損害を生ずるおそれがあるときは、都道府県知事は、利害関係人の請求又は職権により、一時的に理事長の職務を行う者を選任しなければならないとされています(医療法第46条の5の3第2項・同法第46条の6の2第3項による準用)。
もっとも、定款に、「理事長が欠けたときは常務理事がその職務を代行する」といった定めが置かれていることもあります。このような場合には、まずその定めに従って対応すべきだという考え方もあります。
また、これらのほかに、理事長の地位などをめぐって争いがあるときには、裁判所が民事保全の手続によって職務代行者を選任することもあります。
### 理事長の位置づけ
ここまで見てきたように、理事長は医療法人の対外的な代表者としては非常に大きな権限を持っています。
しかし、医療法人の内部的な仕組みとしては、理事長は理事会の決定に従って業務を執行する立場にあります。そして理事会の理事を選任するのは社員総会とされています。
つまり、社員総会 → 理事の選任 → 理事会での理事長の選出、という流れの中で理事長は位置づけられており、社員総会と理事会による監督の下で医療法人を代表するというのが、法律が想定している姿です。
実際の医療法人では、理事長が創設者であるというケースも多く、理事長が事実上すべてを決めているという場合も少なくありません。
しかし、法律上はこのような権限の仕組みになっていることを理解しておくことが、いざという時に備えるために重要です。
次回は、理事会の運営について解説します。
(公開日:2026年7月24日 文責:弁護士鈴木沙良夢)