## 応招義務を読み解く (2)
### 令和元年通知の背景と全体像
[[応招義務を読み解く (1)|前回]]は、応招義務が医師個人の国に対する公法上の義務であること、罰則はないものの実務と無関係ではいられないことをお話ししました。今回は、令和元年通知がどのような経緯で生まれ、全体としてどのような構成になっているのかを見ていきます。
### 昭和24年通知の時代から70年
応招義務についての行政解釈は、医師法制定の翌年にあたる昭和24年の通知(昭和24年9月10日付け医発第752号「病院診療所の診療に関する件」)をはじめとして、個別の場面ごとに示されてきました。医療費の不払いと診療拒否の関係、休日夜間の対応など、テーマごとに通知が積み重なってきたのです。
しかし、考えてみると、医師法が制定された昭和23年と現在とでは、医療を取り巻く環境が大きく異なります。[厚生労働省の検討会資料](https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000357058.pdf)によると、当時は戦後の医療供給体制の量的確保が進められていた時期でした。現在は、診療所と病院の機能分化が進み、救急医療体制が整備され、医療は地域の医療提供体制全体で担われています。古い通知の積み重ねだけでは、現代の医療現場の疑問に答えにくくなっていました。
### 医師の働き方改革という契機
もう一つの大きな契機が、医師の働き方改革です。
勤務医の長時間労働が社会問題となるなかで、「医師には応招義務があるのだから、時間外でも際限なく対応すべきだ」という受け止め方が、現場の負担を重くしているのではないか、という問題意識が示されるようになりました。応招義務の法的性質を改めて整理し、「個々の医師が無限定の義務を負うものではない」ことを明確にする必要性が、働き方改革の議論の中で指摘されたのです。
こうした背景のもと、平成30年度に「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究」が行われました。研究代表者は、当時上智大学法学部教授だった岩田太氏です。
その報告書を踏まえて発出されたのが、[令和元年12月25日付けの医政発1225第4号通知](https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf)です。なお、研究事業の正式名称では「応召」の字が使われていますが、本シリーズでは通知の表記に合わせて「応招義務」と表記します。
### 「今後は基本的に本通知が妥当する」
この通知で特に重要なのは、過去の行政解釈との関係づけです。通知は、次のように述べています。
```
(令和元年通知より)
なお、過去に発出された応招義務に係る通知等において示された行政解釈と
本通知の関係については、医療を取り巻く状況の変化等を踏まえて、
診療の求めに対する医療機関・医師・歯科医師の適切な対応の在り方を
あらためて整理するという本通知の趣旨に鑑み、今後は、基本的に
本通知が妥当するものとする。
```
つまり、昭和24年通知以来積み重ねられてきた個別の解釈は、この通知によって現代の医療提供体制を前提にあらためて整理し直されたということです。応招義務について調べるとき、古い文献や解説に当たることもあると思いますが、まずはこの令和元年通知を出発点とするのが現在の正しい順序ということになります。
### 通知の全体像──二部構成
通知の本文は、大きく二つの部分から構成されています。
第一部にあたる「基本的考え方」では、(1)医師個人の義務と医療機関の責務の関係、(2)労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示の問題、(3)診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方、という三つの柱が示されます。ここで、判断の最も重要な考慮要素は、患者さんについて緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)とされています。
第二部にあたる「患者を診療しないことが正当化される事例の整理」では、まず場面を四つに区分しています。緊急対応が必要かどうかと、診療時間・勤務時間の内外という二つの軸による整理です。
続いて、患者さんの迷惑行為、医療費不払い、入院患者の退院・転院、差別的な取扱い、外国人患者への対応という五つの個別事例についての考え方が示されます。実際に求められる対応は、患者さんの状態や医療機関の体制など、個別の事情によって異なります。

この構成を頭に入れておくと、通知全体がぐっと読みやすくなります。[[応招義務を読み解く (3)|次回]](公開予定)は、第一部の「基本的考え方」を丁寧に読んでいきます。
(公開日:2026年9月15日 文責:弁護士鈴木沙良夢)