## 応招義務を読み解く (3) ###  通知の基本的な考え方 [[応招義務を読み解く (2)|前回]]は、[令和元年通知](https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf)が生まれた背景と、通知が二部構成になっていることをお話ししました。今回は、第一部にあたる「基本的考え方」を読んでいきます。ここには三つの柱があります。 ###  柱の一つ目──医師個人の義務と医療機関の責務 前々回見たとおり、応招義務を負うのは個人としての医師・歯科医師です。しかし、通知はそれだけで終わらせず、組織としての医療機関について次のように述べています。 ``` (令和元年通知 1(1)より) 他方、組織として医療機関が医師・歯科医師を雇用し患者からの診療の求めに 対応する場合については、昭和24年通知にあるように、医師又は歯科 医師個人の応招義務とは別に、医療機関としても、患者からの診療の 求めに応じて、必要にして十分な治療を与えることが求められ、正当な 理由なく診療を拒んではならないこと。 ``` 医師個人の応招義務とは別に、医療機関としての責務がある、という整理がここではされています。現代の医療は組織で提供されるものですから、診療の求めにどう対応するかも、個々の医師が一人で抱え込む問題ではなく、医療機関として組織的に判断すべき問題だということになります。 窓口での判断を担当医一人に委ねず、院長や事務部門を含む組織として対応することが重要です。この考え方は、通知が医療機関の責務を医師個人の応招義務と分けて整理していることとも整合します。 ###  柱の二つ目──労働関係の問題と応招義務は別もの 二つ目の柱は、勤務医の労働環境に関わるものです。 ``` (令和元年通知 1(2)より) 労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等については、使用者と 勤務医の労働関係法令上の問題であり、医師法第19条第1項及び歯科 医師法第19条第1項に規定する応招義務の問題ではないこと。 ``` 通知は、勤務医が労働関係法令等に反する診療業務の指示に従わないことと、応招義務の問題を区別しています。 応招義務を理由に、勤務医へ際限のない労働を求めることはできません。 他方で、個々の患者さんへの対応は、緊急性や提供可能な医療などに即して別途検討する必要があります。 ###  柱の三つ目──最重要の考慮要素となる「緊急対応の要否」 そして、三つ目の柱が、このシリーズの中心となる「正当化の考え方」です。 ``` (令和元年通知 1(3)より) 医療機関の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが正当化 されるか否か、また、医師・歯科医師個人の対応としてどのような場合に 患者を診療しないことが応招義務に反するか否かについて、最も重要な 考慮要素は、患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度) であること。 ``` 判断にあたってまず確認すべきなのは、患者さんの病状と緊急対応の必要性です。ただし、緊急性が高い場合でも、診療時間内・勤務時間内かどうかや、医療機関の専門性・対応能力などによって、求められる対応は異なります。 通知の第二部では、緊急対応が必要で、診療時間内・勤務時間内の場合について、専門性・診察能力、設備状況、他の医療機関による対応の可能性などを総合的に考慮するとしています。そのうえで、事実上診療が不可能といえる場合に限って、診療しないことが正当化されると整理しています。 一方、診療時間外・勤務時間外については、応急的に必要な処置をとることが望ましいとしつつ、原則として公法上・私法上の責任に問われないとしています。診療所等に直接来院した場合は、必要な処置のうえ、救急対応のできる医療機関に依頼することが望ましいとも述べています。具体的な対応や責任の判断は、個別の事情によって異なります。 このほかにも重要な考慮要素として、通知は、診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内であるかどうか、そして患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係を挙げています。医療提供体制の機能分化・連携や、勤務医の勤務環境への配慮という観点も踏まえた整理です。 ###  三つの柱を踏まえて 整理すると、医師個人の義務とは別に医療機関の責務があり、労働関係の問題と応招義務は切り分けて考える、ということです。 そして、診療の求めへの対応では、緊急対応の要否が最も重要な考慮要素となります。診療時間・勤務時間の内外と信頼関係も重要な考慮要素です。これが通知の土台です。 [[応招義務を読み解く (4)|次回]](公開予定)は、緊急対応の要否と診療時間の内外を組み合わせた、四つの場面の整理を見ていきます。 (公開日:2026年9月16日 文責:弁護士鈴木沙良夢)