## 応招義務を読み解く (4) ###  「診療しないことが正当化される場合」の整理 [[応招義務を読み解く (3)|前回]]は、通知の基本的考え方──最も重要な考慮要素は緊急対応の要否であり、診療時間・勤務時間の内外と信頼関係も重要な考慮要素となる──をお話ししました。今回は、この考え方を具体的な場面に当てはめた、通知第二部の冒頭の整理を読んでいきます。 [令和元年通知](https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf)は、緊急対応が必要な場合(病状の深刻な救急患者等)と緊急対応が不要な場合(病状の安定している患者等)に分け、それぞれについて診療時間内・勤務時間内か、診療時間外・勤務時間外かで場合分けをしています。あわせて四つの場面です。 ![urgency-time-matrix](../picture/urgency-time-matrix.svg) ###  場面① 緊急対応が必要で、診療時間内・勤務時間内の場合 ``` (令和元年通知 2(1)①アより) 医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療 提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性 (医療の代替可能性)を総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能と いえる場合にのみ、診療しないことが正当化される。 ``` 緊急の患者さんが診療時間内にいらした場合、診療しないことが正当化されるのは「事実上診療が不可能といえる場合のみ」です。専門外である、設備がない、他に対応できる医療機関がある──そうした事情を総合的に考えても、なお事実上不可能といえるかどうか、という極めて限定的な判断になります。診療時間内・勤務時間内の緊急対応について、診療しないことが正当化される範囲を限定した整理です。 ###  場面② 緊急対応が必要だが、診療時間外・勤務時間外の場合 ``` (令和元年通知 2(1)①イより) 応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、公法上・私法上の 責任に問われることはない(※)。 ``` 診療時間外・勤務時間外については、応急的に必要な処置をとることが「望ましい」とされつつ、原則として公法上・私法上の責任には問われない、と整理されました。通知の注記では、必要な処置をとる場合でも、医療設備が不十分なことが想定されるため、求められる対応の程度は低い(心肺蘇生法等の応急処置の実施など)とされています。 また、診療所等に患者さんが直接来院された場合には、必要な処置を行ったうえで、救急対応の可能な病院等に対応を依頼するのが望ましい、ともされています。時間外に一人で抱え込むのではなく、地域の救急医療体制につなぐという発想です。 ###  場面③ 緊急対応は不要で、診療時間内・勤務時間内の場合 ``` (令和元年通知 2(1)②アより) 原則として、患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要がある。 ただし、緊急対応の必要がある場合に比べて、正当化される場合は、 医療機関・医師・歯科医師の専門性・診察能力、当該状況下での医療提供 の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の 代替可能性)のほか、患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係等も 考慮して緩やかに解釈される。 ``` 病状の安定している患者さんが診療時間内にいらした場合も、原則は診療に応じることになります。ただし、緊急の場合と比べると、正当化されるかどうかの判断は「緩やかに解釈される」とされ、考慮要素に信頼関係が加わっている点が目を引きます。次回お話しする個別事例(迷惑行為など)は、主にこの場面の各論ということになります。 ###  場面④ 緊急対応が不要で、診療時間外・勤務時間外の場合 ``` (令和元年通知 2(1)②イより) 即座に対応する必要はなく、診療しないことは正当化される。ただし、 時間内の受診依頼、他の診察可能な医療機関の紹介等の対応をとる ことが望ましい。 ``` 病状が安定している患者さんからの診療時間外の求めについては、即座に対応する必要はない、とはっきり整理されています。そのうえで、「診療時間内に改めて受診していただく」「対応可能な他の医療機関をご紹介する」といった対応が望ましいとされています。断りっぱなしにするのではなく、適切な受診先につなぐ一言を添える──現場の対応としても自然な形だと思います。 ###  四つの場面を貫くもの こうして並べてみると、判断の出発点は、患者さんに緊急対応が必要かどうかということです。そのうえで、診療時間・勤務時間の内外や、医療機関の専門性・対応能力などに応じて考えていきます。 緊急の場合でも、時間内と時間外では通知の整理が異なります。この区別を踏まえることが、実務の判断を支える土台になると考えられます。なお、具体的な対応や責任の判断は、個別の事情によって異なります。 [[応招義務を読み解く (5)|次回]](公開予定)からは、この枠組みを前提に、通知が取り上げる五つの個別事例を読んでいきます。まずは、患者さんの迷惑行為と医療費の不払いです。 (公開日:2026年9月17日 文責:弁護士鈴木沙良夢)