## 就業規則は「ある」だけでは足りない ~休職・懲戒の場面で効いてくる話~ ###  「休職したい」と言われた日 職員から「体調を崩したので、しばらく休職したい」と申出があった場合、就業規則の休職条項を確認します。規則を作成したまま保管場所や周知方法が不明確になっていると、必要な場面で適用できません。 就業規則は、平時にはほとんど意識されない書類です。しかし、休職・懲戒・退職といった「何かが起きた場面」では、就業規則の有無と中身が、取れる対応を考える重要な手掛かりになります。今回はこの点をお話しします。 ###  10人未満の診療所にも「作る理由」があります 常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則の作成と労働基準監督署への届出の義務があります([労働基準法89条](https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73022000))。人数にはパートタイム職員等も含み、原則として事業場ごとに判断します。作成・変更時には、過半数労働組合又は過半数代表者の意見聴取も必要です(同法90条)。逆に言えば、職員10人未満の診療所には法律上の作成義務はありません。ここで「うちは小さいから関係ない」と思われがちなのですが、実は逆です。 私傷病による休職は、法律が一律の内容を定めている制度ではありません。就業規則や労働契約等で、利用できる条件や期間を明確にしておくことが重要です。雇用を維持しながら療養する機会を設ける制度として機能します。他方、休職期間の満了時に復職できない場合の取扱いを定める機能もあります。規程がなければ、体調を崩した職員にどの制度を適用するかが曖昧になります。懲戒についても、就業規則上の根拠(懲戒事由と懲戒の種類)を欠く処分は無効となることがあります。また、規定があっても、処分の理由や重さの相当性を検討する必要があります([労働契約法15条](https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73aa9536))。 ###  「ある」だけでは足りない、という意味 就業規則をめぐる落とし穴は、三段階あります。 第一に、周知です。就業規則を労働契約の内容とするには、合理的な労働条件を定め、職員に周知していることが基本となります(労働契約法7条)。個別の合意との関係にも注意が必要です。金庫に保管するだけでは、周知したことにはなりません。院内の見やすい場所への備え付け、共有フォルダへの掲載など、いつでも見られる状態にしてください。 第二に、中身が自院に合っているかです。開業時にもらった雛形をそのまま使っている場合、大企業向けの条項(出向規定など)が混ざっていたり、逆に、賞与の支給日在籍要件や退職金の定めが自院の実情とずれていたりします。雛形の退職金規程をうっかり残したまま、「うちに退職金制度はない」つもりでいた、という事例は典型です。合理的な内容の規定が周知されていれば、意図していなかった支給義務が問題になることがあります。 第三に、実際の運用との一致です。規則では「欠勤1か月で休職発令」なのに、なんとなく数か月放置している。規則では始末書は懲戒なのに、日常の注意の道具に使っている。規則と運用の乖離は、いざというときに「規則は形骸化していた」という反論の材料になってしまいます。 ###  休職規程で決めておくべきこと 私傷病による欠勤・休職に対応するため、休職規程では、休職の要件、期間、復職の判断方法、期間満了時の取扱いを明確にしておきます。期間は、勤続年数や自院の体制などを踏まえて検討します。 復職の判断では、主治医の診断書に加え、実際の業務内容や必要な配慮を確認することが大切です。必要に応じて指定医の受診や面談を求める仕組みも考えられますが、規定があれば無制限に受診を命じられるわけではありません。必要性・合理性や、健康情報の適切な取扱いにも配慮します。 期間満了時に退職とする規定を置く場合でも、満了したというだけで機械的に判断することは避ける必要があります。復職の可能性や業務上の配慮を検討し、業務上の傷病などには別の法的保護があることにも注意します。具体的な結論は、契約内容や職務、傷病の状態などによって異なります。 ###  おわりに──数年に一度は健康診断を 就業規則は、作って終わりの書類ではありません。法改正(直近では[2026年10月1日のカスタマーハラスメント対策義務化](https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662580.pdf)があります。[[医療機関のカスタマーハラスメント対応]]をご覧ください)や自院の実情の変化に合わせ、数年に一度は点検が必要です。トラブルが起きた後でも規則の見直し自体は可能ですが、後から規定を作って過去の行為への懲戒根拠とすることはできません。労働条件を不利益に変更する場合は、職員の合意や変更の合理性・周知などを検討する必要があります(労働契約法9条・10条)。何も起きていない今こそ、お手元の就業規則を一度読み返してみてください。点検にあたっては、社会保険労務士の先生と弁護士の連携が活きる場面も多いところです。 (公開日:2026年9月21日 文責:弁護士鈴木沙良夢)