労務問題

病院・診療所の労務問題(従業員対策)1

病院・診療所の労務問題(従業員対策)1

Q.私は個人診療所を開設している医師です。5ヶ月前にAさんという事務員を雇いました。試用期間は3ヶ月で、その間は休むこともなく通常の勤務をしていたため、3ヶ月経った時点で正社員として本採用しました。
しかし、試用期間後はシフトに不満を言うようになり、特に理由のない急な欠勤などが多くなりました。他の事務員は普通に勤務をしており、Aさんだけを特別扱いすることは出来ません。
このような場合に、Aさんに辞めてもらうことはできるのでしょうか。また、解雇した場合にどういうことが起こりうるのでしょうか。

病院・診療所の労務問題の特徴

病院・クリニックの労務問題・従業員問題も他の職種と著しい違いがあるわけではありません。それというのも勤務医、看護師、事務員のいずれにも労働基準法という法律の適用があり、「医療の従事者だから」という理由だけで特別扱いはされてはいないためです。
ただ、労務問題というのは職種に関係なく経営者にとっては負担となる大きな課題ですし、特に医師の場合には独立開業した時点で初めて従業員の雇用、シフト調整、労務問題対応を自分がこなさなければならないことに気づき、苦慮するというようなケースも多いようです。
私(鈴木)も調べてみましたが、医学部においても労務管理や労働基準法などのような「将来、独立開業した場合に必要となる医学以外の知識」を教えるカリキュラムを持っているところは現時点ではあまり無いようです。
医師が独立開業した場合、事務員なしでクリニックを運営していくことはほぼ不可能ですので、開業医になってからはこの問題と向き合っていくしかないということになります。
実際に、私(鈴木)が顧問弁護士をしている病院・診療所から来る日々の相談の中で、この労務・従業員の問題はかなり大きいウェイトを占めています。院長先生・理事長先生に労働基準法などの労働法規についてご説明を差し上げると、「もっと前に誰かが教えてくれればよかったのに」というような感想がしばしば返ってきます。

試用期間とはどういうものですか?

今回のケースでは試用期間は経過していますが、仮に試用期間が経過する前に既に問題行動があり、本採用は見送りたいと考えた場合だとしたらどうなるでしょうか。
試用期間のある労働契約はその期間が経過した時点で、雇い主の側の判断で其の従業員に辞めてもらうことが出来る特約の付いた契約ということができます。
しかし、試用期間の経過直後であれば、どんな理由でも辞めてもらえるのかといえばそうではなく、勤務状況が不良であるとか能力が著しく低いなどの理由がなけばならないとされています。
ただし、試用期間が経過した時点で辞めてもらう場合には、本採用されて正社員として働いている時点で解雇するよりは緩やかに判断されます。

Aさんに辞めてもらうことはできるのでしょうか?

雇い主側としてAさんに辞めてもらう手段として、まず解雇が考えられます。しかし、一度雇い入れた従業員を解雇するには大きなハードルがあります。
労働法規は労働者の権利を厚く保護していて、解雇をするに当たっても「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効となる」(労働契約法第16条)とされています。つまり、解雇の有効性が裁判等で争われた場合、理由のない解雇、大した理由がない解雇と判断されてしまうと、その解雇は無効となってしまいます。
そのため、まずは、雇用主である院長先生からAさんに対して「任意に辞めてもらえないか」という話をすることになると思います。
院長先生とAさんが話し合った上で合意ができれば、合意解約ということになりますので解雇と言うことにはなりません。辞めるに当たっての条件もお互いの合意で決めることが出来ますし、後々問題が起きる可能性も少ないでしょう。
合意で辞めてもらうことができなければ、最初にお話しした解雇を考えるしかありません。

解雇した場合にどういうことが起こりえますか?

(1)Aさんが労働基準監督署に相談に行き労働あっせん等の手続きを取る
Aさんが労働基準監督署に行った場合、労働あっせんの利用を勧められることがあります。この労働あっせんは、都道府県労働局で行われる仲裁のような手続きです。参考:東京都紛争調整委員会によるあっせん。こちらはあくまで専門家を間に入れての話し合いであり強制力はありません。
ただ、個人的な経験としては早い段階でそれなりに落ち着くべきところで話がまとまることも少なくないため、労働あっせんには出席し(場合によっては弁護士を立てて)対応した方がよいと思います。
(2)労働審判、裁判等を起こされる
こちらは法律上の強制力のある手続です。解雇が無効という判断がでて確定すれば、Aさんを復職させなければなりません。したがって、解雇は、後で労働審判、裁判等を起こされたときに「解雇の濫用だ」と判断されないように、様々な証拠を確保して慎重に判断をした上で行う必要があります。
いずれにしても事前に、弁護士に相談しておいた方がよい事案といえると思います。

関連記事

  1. 従業員の給料を差し押さえるという内容の通知が裁判所から送られてきました…

  2. 病院・診療所の労務問題(従業員のSNS管理・対策)

  3. 看護師に対する奨学金の貸付

  4. 勤務医の雇用・解雇について

  5. 病院・診療所の労務問題(従業員対策)2

最近の記事

  1. 陳述書

    2018.07.8

アーカイブ

よく読まれている記事

  1. 登録されている記事はございません。
PAGE TOP

執筆・取材

弁護士ドットコムNEWSに取材記事が掲載されました。「がん患者の「余命告知」は義…

執筆・取材

日経ヘルスケア2018年8月号に医療広告に関する執筆が掲載されました。

ニュース評釈

【ニュース評釈】HIV感染理由に内定取り消し

医療事件

陳述書

医療事件

医療事件における美容外科

医療事件

訴状の見方、読み方(2)

医療事件

訴状の見方、読み方(1)