東村山市医師会での講演の模様
東村山市医師会から委嘱をいただきまして平成29年1月19日に「日常診療で気を付けるべき法律知識」と題しまして学術講演を行いました。
同医師会からは患者様の診療に当たっている医師が日常診療で遭遇することが多い具体的な問題について法的な側面からお話していただきたいとの申し出があり、それに沿う内容とさせていただきました。 本講演会では私が弁護士活動で扱って来て頻度の多い「応召義務」、「カルテの開示」、「医療ミスによる裁判」、「医療事故による裁判」等について事例を挙げて説明をいたしました。
1.講演概要
・演題:「日常診療で気を付けるべき法律知識」
・演者:弁護士 鈴木沙良夢(鈴木沙良夢法律事務所)
・主催:公益社団法人東村山市医師会
・場所:東京都東村山市本町4-5-6
・日時:平成29(2017)年1月19日(木)19:30~21:00
・参加者:東村山市医師会 25名
2.講演内容(約60分)
講演会では医者と患者間のトラブルについて10件の事例を挙げて、各々の事例について法律上の見解を述べる形式で説明しました。
(1)クレームの多い患者の診察を断ってもよいのか?
①医師法19条「応召義務」では、「診療に従事する医師は,診療治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、拒んではならない。」と法律で定められているが、正当な事由なく診療を拒んだら罰せられるのか?そもそも正当な事由とは法律上どういうものなのか?
②患者と応召義務で揉めた場合に法律的に何が起きるのか?実際の裁判事例を紹介して説明した。日夜患者を観る医師にとっては切実な問題になることが多いなかで、診療を拒否した場合に法律的にどのように判断されるのか分かりにくい問題である。
(2)カルテのコピーは必ず渡さなければならないのか?
①日本医師会並びに厚生労働省のガイドラインに従って患者本人にカルテのコピーを渡す分にはあまり問題はおきないものと考えられる。
②患者本人が成人している場合には母親であっても委任状等で代理権を与えられていなければ開示請求できないとされているが、満15歳以上の未成年者には疾病の内容等によることもある。
(3)「医賠責保険に入っているので大丈夫です」と言って良いのか?
患者から医療過誤による金銭の支払いを求められた場合について。医師賠償責任(医賠責)保険の仕組み、保険の支払いまでの流れを説明した。
(4)カルテを詳しく書くことは医師の身を守るのか?
カルテを詳細に書くことは医師会・保険会社が過失の有無・因果関係の有無の判断に資する。
(5)「すいません」と謝ると責任を認めたことになるのか?
「すいません」などの謝罪の言葉を述べても、そのことだけで過失有りと認められるわけではない。裁判になれば、様々な客観的な事情から過失があったか否かが判断される。
(6)全て免責する内容の同意書をもらえば裁判を回避できるか?
残念ながら、そのような同意書をもらっても裁判を回避することはできない(免責はされない)。誓約書を理由に損害賠償の責任を免れることができなかった裁判事例を紹介した。
(7)どういうタイプの日常診療のミス・案件が裁判になるのか?
私の経験に基づき、裁判になりやすいタイプを挙げて事例を紹介した。
(8)裁判になるとどれくらいの時間がかかるのか?
①私の経験では,裁判になると地方裁判所で判決が出されるまでに1年以上かかるものが多い。通常の感覚からすると時間が掛かりすぎているように思われるかも知れない。
②例外もあるが、多くの医療事件においては医師が裁判所に出なければならないのは、裁判所において尋問される証人尋問の時一回のみである。
(9)民事事件と刑事事件は何がどう違うのか?
①基本的には、民事事件(民事裁判)と刑事事件(刑事裁判)は全く別物である。刑事事件で不起訴(刑事裁判にしないという判断)になっても、民事裁判で負けることもある。
②患者側が民事裁判を起こしつつ、国に対して「刑事事件も起こして欲しい」という「告訴」という手続きをとることもある。
(10)医療事故を起こして逮捕されることはあるのか?
①医療事故が手技上の過失のみである場合には、現時点(平成29年1月現在)ではよほど稚拙な手技であった場合でもない限り逮捕される可能性は少ないように思われる。
②警察はあくまで捜査(取り調べ)をするだけ、検察は事件を刑事裁判にするかしないか(起訴・不起訴)を判断する。裁判所は検察官が起訴した件について判断するだけである。
3.質疑応答(約30分)
上記のように10項目の質問に対して説明した後に各種の質問がなされ質疑応答をおこないました。
ご来場の方々からのご質問は診療の最前線におられる医師としての悩ましくもあり重要な医療法務上の視点が含まれた質問が多くありました。
多くの先生方にご参加をいただきまして、誠にありがとうございました。