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医療刑事事件で警察・検察の取り調べを受ける場合の注意点
医療事件において当事者となった医師あるいは医療従事者は、捜査機関である警察と、起訴をするかしないかきめる機関である検察(つまり事件を裁判所でさばいてもらうか否かを決定する)の双方で取り調べを受けることになります。
ここでよく理解しておく必要があるのは、裁判にするかしないかを決めるのは検察の独占的な権限だということです。つまり、警察はあくまで証拠を集めて整理して検察庁に送るまでが仕事であって、警察には裁判にするかしないかを決める権限は一切ありません。したがって、警察は加害者側から当該事件の今後の見込みを聞かれたとしても通常は答えませんし、仮に、警察から事件の今後について見込みを聞かされたとしても、それはあくまでその警察官の経験に基づくの個人的な意見でしかないということです。
誰が取り調べられるのか
医師の手技上の過誤が疑われている事案ですと、執刀医はもちろん麻酔医や看護師なども事情を聞かれたり調書を作成したりすることになります。
取り調べはどこで行われるか
取り調べは基本的には警察署あるいは検察庁で行われます。
警察での取り調べは意外に時間的な都合がつけやすく、土日等の取り調べを希望して認められる場合もあります。
検察庁は基本的には平日の朝から夕方頃までのいずれかの時間帯に取り調べるのが普通です。
取り調べでは何を聞かれ、何が作られるのか
取り調べでは、事案について時系列的に聞かれることになります。警察官や検察官も正直なところ医療については素人です。そのため、最初の取り調べではカルテ等の記載の意味やその時の行動、手技の方法などについて聞かれることが多いといわれています。したがって、取り調べの前にはカルテ等の写しを読んでおいて、当時の記憶を思い出しておくとよいと思われます。
また、外科的な医療行為の場合には、使用した器具等を持参してその場で説明ができるようにしておくのもよいでしょう。
事情をひと通り聞かれた後には、場合によっては警察や検察は「調書」という書類を作成します。この調書は取り調べの対象となった医師等が、事案について自分が話している体裁で作成される書類です。
そして、取り調べにおいて最も気をつけなければならないのがこの調書の作成です。この調書は、前述のように医師自身が話しているかのような体裁ではありますが、実際に内容を作成するのはあなたから事情を聞いた警察官や検察官です。当然のことですが、その場にいなかった者しかも医療に精通しているとはいいがたい警察官や検察官が作成するものです。そのため、端的に誤っている箇所があったり、概ね当たっているがニュアンスが異なっていたりという部分が当然生じてきます。
調書については警察官や検察官が文面を作成した後に、必ず読み聞かされます。
人情的には、「違う箇所はたくさんあるが、せっかく苦労して書いてもらったのだから訂正を申し立てるのは申し訳ない」あるいは「患者さんが亡くなられたことは事実なのだから何を書かれても仕方がない」という気持ちになることも理解できます。
しかし、今の日本の刑事司法では、一旦調書を作成しそれに医師が署名押印をしてしまうと、後で「実は違う箇所がある」と申し立てたとしても覆すことは極めて難しいシステムになっていますので、やはり違う箇所については必ず申し立てて訂正をするようにしてください。
また、調書については、署名押印をする義務があるかのように思われる方もいますが、調書に対する署名押印は義務ではなく内容が事実と異なる場合には拒否していただいて構いません。
何回くらい取り調べられるのか
これはケースバイケースです。しかし、医療事件の場合には警察が関係者全員に話を聞いた後に、検察から補充部分を指摘されて再度取り調べをするということが通常の事件より多いように思われます。初回の取り調べから数ヶ月たってから二回目の取り調べが行われるということも往々にしてあります。過失が明白ではない場合には、全てが終了するまでに年単位の時間がかかることもあると思っておいたほうがよいでしょう。
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