医療民事事件とは
民事事件というのは、人から人に対する主として金銭の支払を求める種類の事件のことをいいます。手術のミスによって人を死亡させた場合、医師には過失行為があったとして民法上の不法行為責任(民法第709条)を負います。
民事事件の流れ
1.患者側からのカルテ開示請求あるいは証拠保全手続
患者側より任意によるカルテの開示請求がなされることがあります。カルテの開示ついては各種ガイドラインに基づいて行うことになります。
また、証拠保全という手続が行われることもあります。 証拠保全とはあらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があるときに認められる手続きです(民事訴訟法第234条 )。
証拠保全決定がなされると証拠調べがなされる前の1,2時間程度前に、裁判所の執行官によって決定正本と期日呼出状が送達されます。その後、裁判所から病院に裁判官等が訪問してきて病院にカルテ等の提示を求めます。証拠保全の申立人はこれらの証拠をカメラで撮影します。
病院側、医師側としては、事前に一切連絡もないままいきなり当日に証拠保全が行われるわけですから大変負担が大きい手続きといえます。
一方で、証拠保全は裁判所の手続によるものですから、少なくとも証拠保全以降には改ざんの事実はないことを証明できますのでデメリットだけというわけではありません。
2.弁護士による裁判外請求及びこれに対する対応
患者側の弁護士は、任意の開示あるいは証拠保全によって手に入れたカルテを患者側に協力する医師とともに検討し、担当医に過失があるか否かを判断します。担当医に過失があると判断した場合には、通常であれば患者側弁護士は裁判外で損害賠償を求めてきます。
多くの場合、病院に患者側弁護士より話し合いを求める手紙あるいは具体的な損害額の支払いを求める内容証明郵便が送られて来ます。この段階では医師個人で対応をするのはかなり困難と思われます。速やかに医療事件に詳しい弁護士に相談をすべきです。
弁護士同士の話し合いで解決ができた場合には、和解契約書を作成します。和解契約書では金銭のやりとりについての取り決めや、定められた金銭以外にはお互いに債権債務がないことなどを盛り込みます。和解契約書が成立した場合には事件は全て終了します。
しかしながら、この裁判外の段階で和解が成立しない場合には次の裁判上の手続きに移行することになります。
3.裁判上の請求及びこれに対する対応
裁判上の請求にはいくつかありますが医療民事事件の場合には調停あるいは裁判の手続きが取られることが多いという印象を持っています。
調停とは、裁判所で行われる話し合いのことです。調停では、一名の裁判官と二名の調停委員を間に入れて双方が言い分を話します。基本的には二名の調停委員が中心となって和解を進めていきます。この調停はあくまで話し合いですので、和解の提案が調停委員からなされたとしても必ず受け入れなければならないものではありません。一方が和解を打ち切りたいと思った場合には、調停は不成立として終了いたします。和解を受け入れなかったことによって何らかのペナルティーがくだされることはありません。
患者側が裁判の手続きを選択した場合、請求を受ける側の医療法人あるいは医師本人に対し裁判所から「訴状」という患者側の請求を明らかにした文書が送られてきます。この文書を受け取ったら速やかに弁護士に相談をしましょう。仮に、この文書を受け取っていながらなんの対応も取らなかった場合には無条件で相手の言い分が認められてしまいますので注意をする必要があります。
訴状には、日時を指定して裁判所に出廷すること(概ね1ヶ月半から2ヶ月程度先が指定されていることが多いかと思います)、答弁書という言い分を書いた文書を提出することなどが記載された裁判所作成の文書が同封されています。これらをあわせて弁護士に渡して事後の対応を協議すべきでしょう。
裁判の日時は概ね1ヶ月から2ヶ月に一回の割合で行われていきます。裁判になった医療民事事件については終了までに2年ちょっと位かかるといわれています。これは他の民事事件に比べても二倍程度長く、それだけ医療民事事件が複雑で判断が難しいものだということを意味しています。
裁判の初期の段階では、お互いが自分たちの主張を述べ合います。この主張の段階が終わると証拠調べと呼ばれる段階に入ります。ここでは、担当医本人を裁判所に呼んで話を聞いたり(証人尋問)、第三者の医師によって鑑定が行われたりします。
証拠調べまで終わると、裁判官としてもだいたい担当医に過失があったか否かについて心証を取ることができます。そのため、どちらかが強硬に和解に反対しているような場合以外では、和解の提案がなされるのが通常です。
この段階で、和解がまとまれば事件は終了です。ここで、和解が決裂すれば、裁判所は判決という形で判断をすることになります。
判決では、患者側の請求を認める、一部認める、認めないのいずれかになります。不服がある側は上級審に控訴を申し立てることができます。その場合は判決は確定せず上級審で再び争われることとなります。たとえば、東京地方裁判所の判決に不服がある場合には、東京高等裁判所に控訴を申し立てることができるのです。
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