弁護士による医療法人法入門(2)
医療法人の組織は、医療法と定款で決まる
前回の最後では、医療法人を運営・経営していくためには法人を構成する組織が必要であることを説明いたしました。
今回からは、その医療法人の組織について説明していきたいと思います。
まずは、何が医療法人の組織を決めているのかを知る必要があります。
医療法人についてのルールを定めている法律は「医療法」という法律で、医療法人の組織や構成員についてもこの法律に書かれています。
しかしながら、医療法を読んでも、正直なところあまり詳しくは書かれていません。たとえば、医療法には原則として理事が三人以上必要であるということは書かれていますし、医療法人の業務は理事の過半数で決めるとは書いてあるのですが、理事の集まりである理事会については特に何も書かれていません。組織について事細かく決められている会社法とはその点が違います。
株式会社の場合はこれまでに内部組織について数多くの訴訟に発展する紛争が起こってきたという歴史があり、争いを未然に防止するために会社法には細かく書かれているのだと思われます。一方で、医療法にはそのような歴史がないためか組織については必要最低限しか書かれていません。
このような状態ですので医療法だけを見て、医療法人の組織を全て理解することはできません。
それでは、「医療法に書かれていない部分についてはどのように決められているのか」ということになりますが、その点については医療法人ごとに作られている定款がルールとして機能いたします。通常、医療法人において理事会が存在しているのは定款で理事会についての定めがされているから、ということになります。
つまり、医療法の他に、医療法人の定款を見なければ医療法人の組織を理解することはできないということになります。
また、定款は、行政の指導や認可を受けているとはいえ、医療法人ごとに内容は異なります。そのため、組織やその運営方法についても各々の医療法人ごとに差が生じることになります。
たとえば、社員の除名の要件について、定款で社員総会における「総社員の過半数の出席、出席社員の過半数の同意」とされている医療法人もあれば、「総社員の三分の二以上の出席、出席社員の三分の二以上の同意」とされている医療法人もあります。
仮に、医療法人内で争いが起きて社員の除名が焦点となる場合には、「過半数」で足りるのか「三分の二以上」が必要なのかといった点が大きな意味を持つ場合もあります。このように医療法人の組織については、「定款に何が書いてあるか」ということが極めて重要な意味を持ちます。
医療法と定款によりますと、医療法人の組織・構成員は、(1)社員(これは従業員のことではありません)、(2)社員総会、(3)理事、(4)理事会、(5)理事長、(6)監事、となります(財団医療法人はこれと異なりますが、財団医療法人自体が医療法人総数の1%程度と数が少ないためここでは割愛いたします)。
社員の集まりである社員総会が医療法人の最高の意思決定機関となります。そして、社員総会が理事を選び、理事の集まりである理事会が通常業務の意思決定と執行を行います。そして、理事会が理事長を選び、理事長が医療法人を代表することになります。
あまり認識されていないことなのですが、このうちの社員と社員総会が医療法人において最も重要な構成員と組織になります。
次回は、この医療法人の根本となる構成員と組織である社員と社員総会について書いていきたいと思います。
(平成25年4月16日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。