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弁護士による医療法人法入門(9)
医療法人の理事会について
今回は、医療法人の理事会について説明をしたいと思います。あたりまえのことですが理事の集まる会、これが理事会になります。
しかし現時点(平成27年5月14日現在)においては、理事会については法律(医療法)には何も書かれていません。
そのため、理事会がどのような集まりになるかは、各医療法人の定款の定め方で決まります。実際には、モデル定款をそのまま使っているような場合がほとんどだと思いますので、それほどの違いはありません。ただし、歴史のある医療法人で旧来からの定款を改訂し続けて現在に至っているような場合には一風変わった規定が残っている場合もあります。
理事会の招集について
理事会の招集は理事長がするとされていることがほとんどです。招集の要式については定まっていないことが多く、そのような場合には口頭での招集でも構わないとされています。
社員総会の場合には、医療法第48条の3第6項で「社員総会の招集の通知は、その社員総会の日より少なくとも五日前に、その会議の目的である事項を示し、定款で定めた方法に従つてしなければならない。」とされていて、定款で書面によって招集を通知することにされているのことが多いのとは対照的です。
これは医療法人にとって重要事項を決める社員総会の場合と違って、理事会では通常の経営判断を行うため事態に即応できるように招集には書面が必要とはされていないのだと思います。ただ後々、そのような理事会が実際に開かれたのか、その理事会が理事長によって招集された適式な会だったのか、といったことで争われることもあります(特に、理事長の選解任の理事会について問題となることが多いように見受けられます)ので、理事会についても招集通知を出しておいた方がよいでしょう。
理事会で決議する内容について
理事会について医療法に何も書かれていない関係上、理事会で何の決議をするのかということは医療法人の定款によるということになります。ただし実際には、定款にもあまり詳しく書かれていないというのが実情です。
医療法人の定款では多くの場合、(1)基本財産の処分、(2)基本財産の担保提供、(3)収支予算の決定、について理事会の決議が必要とされているのですが、これは社員総会の決議も必要な事項になります。この他に定款に、具体的に理事会で決議する事項が書かれていればそれに従うことになりますが、決議事項について具体的な記載のある定款はあまり見かけません。あっても、社員総会や理事長の付議する事項を理事会で決める、というような記載をたまに見かける程度です。
これに対して、例えば株式会社の場合ですと、重要な財産の処分・譲り受け、多額の借金などについては取締役会(ポジションとしては医療法人での理事会に相当します)の決議が必要と法律で定められており、医療法人の理事会とは異なって権限が明確にされています。
このように医療法人においては具体的な定めが極めて少ないために「どのような場合に理事会にかけなければならないのか、あるいは理事長の独断で行ってしまってよいのかわからない」という事態が起きる原因となっています。
そのような中で、明確に理事会で決議する内容とされていいるのが理事長の選任についてです。また、理事会は理事長を選ぶことが出来るとされているのですから、解任することも出来ると考えられています。これは理事会に理事長を監督する権利と義務があると考えられているためです。
実務上も理事会における理事長の選任・解任はとても重要で、理事会における理事長の選任・解任を巡って医療法人内で争いが起きるということはよく見受けられます。
(平成27年5月18日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。