## カルテ開示請求対応ガイド (1)
### カルテ開示請求とは
[[カルテ開示請求対応ガイド はじめに|前回]]は、カルテ開示請求が医療機関にとって身近なテーマになっていること、そして現在は「本人へは原則開示」の時代であることをお話ししました。今回からは、カルテ開示請求についてもう少し具体的に見ていきたいと思います。
**カルテ開示請求**とは、患者さん本人やその代理人などが、医療機関に対して「診療に関する記録を見せてほしい」「写しを交付してほしい」と求めることをいいます。
請求してくるのは患者さん本人とは限りません。亡くなった患者さんのご遺族から「母の最期の治療内容を確認したい」と言われることもありますし、弁護士から委任状を添えて「依頼者のカルテの写しをいただきたい」と連絡が来ることもあります。保険会社から治療経過の確認のために請求が来る場合もあります。
近年こうした開示請求が増えている背景には、患者さん自身の権利意識の高まりや、インターネットで「カルテ開示請求の方法」を簡単に調べられるようになったことなどがあるといわれています。
「カルテ開示請求」というものの存在を知った患者さんが、自ら医療機関に開示を求めるケースは、今後もさらに増えていくのではないでしょうか。
### 開示の対象となる「カルテ」の範囲
「カルテ」という言葉は日常的に使われていますが、法律上は**診療録**と呼ばれます。医師法24条は、医師が患者さんを診療した場合に診療録を記載し、5年間保存することを義務づけています。
ただし、開示請求の対象となる「カルテ」は、この狭い意味での診療録だけにとどまりません。実際の医療現場では、レントゲンやCT・MRIなどの画像データ、血液検査の結果、看護記録、手術記録、リハビリテーション記録、紹介状、退院時サマリーなど、患者さんの診療に関わるさまざまな記録が作成・保存されています。患者さんから「カルテを見せてほしい」と言われた場合には、これらの周辺記録も含めて開示の対象となることが一般的です。
電子カルテが普及した現在では、こうしたデータがデジタルで一元管理されていることも多く、開示対象となる情報の範囲はかつてよりもさらに広がっているといえるかもしれません。一方で、「どこまでがカルテに含まれるのか」という線引きが難しい場面もあります。たとえば、スタッフ間で共有された簡易なメモや、電子カルテに紐づかない院内チャットでのやり取りなどは、「カルテの一部」として開示すべきかどうか、判断に迷うこともあるでしょう。
電子カルテの加筆修正の履歴情報や、いわゆる付箋機能に記録された情報も、開示対象になり得ることには留意しておく必要があります。
何が開示の対象になるかについては、「その情報が診療の判断に実質的に用いられたかどうか」「組織的に共有・管理されているかどうか」は一つの目安になると考えますが、個別的な判断が必要となる難しい部分でもあります。
後々のトラブルを避けるためにも、院内で「どの範囲の記録を開示対象とするか」について、電子カルテのシステム仕様も踏まえて、あらかじめ基準を設けておくことが望ましいと思います。
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### カルテ開示を支える法的な枠組み
カルテ開示請求に対応するうえで、最も重要な法律上の根拠となるのが**個人情報保護法**です。民間の医療機関は同法にいう**個人情報取扱事業者**に該当しますので、患者さん本人から自身の**保有個人データ**(ここでは診療録やそれに付随する記録がこれに当たります)の開示を求められた場合には、原則としてこれに応じなければならないことになっています。
かつては、取り扱う個人情報の数が一定以下の小規模な事業者には個人情報保護法の適用が除外されていた時期がありました。しかし、2017年(平成29年)施行の法改正でこの適用除外が廃止され、現在では規模の大小を問わず、すべての民間の医療機関が同法の対象となっています。
なお、国公立の医療機関については、個人情報保護法上の「個人情報取扱事業者」ではなく、同法の行政機関等に関する規律(いわゆる公的部門の規律)が適用されるため、根拠条文や手続の建付けは異なりますが、本人からの開示請求に原則として応じるべきという基本的な考え方は同様です。
もっとも、カルテ開示に関係するルールは個人情報保護法だけではありません。厚生労働省は「**診療情報の提供等に関する指針**」(平成15年)を公表しており、ここでも患者さん本人が診療録の開示を求めた場合には原則として応じるべきことが示されています。この指針自体に法的な強制力はありませんが、実務上の運用基準として参照されています。
また、日本医師会も「**診療情報の提供に関する指針**」を策定しており、医師としての倫理的な観点から、診療情報の提供のあり方を示しています。
これらの関係を整理すると、**個人情報保護法**という法律が土台にあり、その上に厚生労働省の行政指針が具体的な運用の方向性を示し、さらに日本医師会の倫理的な指針が重なっている、という構造になっています。カルテ開示請求に適切に対応するためには、法律だけでなく、こうしたガイドラインも含めて理解しておくことが大切です。それぞれの内容については、今後の回でもう少し詳しくご紹介していきます。
### 原則開示だが、例外もある
ここまでお読みいただくと、「では、求められたら何でも開示しなければならないのか」と不安に思われる先生もいらっしゃるかもしれません。
個人情報保護法は、いかなる場合でも無条件に開示しなければならないと定めているわけではありません。同法33条2項は、次のような場合には開示しないことができると規定しています。
```
個人情報保護法 第33条第2項(要旨)
・本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
・当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
・他の法令に違反することとなる場合
```
医療の現場でいえば、たとえば重篤な疾患の患者さんに対してカルテの内容をそのまま開示することで症状の悪化につながる、あるいは、信頼関係を損なって今後の診療に差し障るおそれが強い場合などは、例外的に開示を制限する余地があります。
ただし、この例外はあくまでも限定的に解釈されるべきものです。「対応が面倒だから」「忙しくて時間がないから」「この患者さんは訴訟を考えているようだから」といった理由は、正当な拒否の理由にはならないとされています。
カルテ開示請求への基本的な姿勢は、「**本人からの請求には原則として開示に応じる。例外的に拒否する場合は、法令上の根拠に基づいて厳格に判断する**」ということになります。もし開示すべきかどうか判断に迷う場面があれば、院内だけで抱え込まず、弁護士等の専門家に早めに相談されることをお勧めします。
[[カルテ開示請求対応ガイド (2)|次回]]は、実際にカルテ開示請求が来た場合に、医療機関としてどのような手順で対応すればよいのかについてお話をしていきます。
#### カルテ開示請求対応ガイド 目次
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(公開日:2026年3月11日 文責:弁護士鈴木沙良夢)