## 医療法人法入門 (2)
### 医療法人の組織は、医療法と定款で決まる
[[医療法人法入門 (1)|前回]]の最後では、医療法人を運営・経営するためには法人を構成する組織が必要であることを説明いたしました。今回からは、医療法人の組織について詳しく説明します。
まず、医療法人の組織は何によって決められているのかを知る必要があります。
医療法人のルールを定めている法律は「医療法」です。この医療法には、医療法人の組織や構成員について基本的な規定が設けられています。
医療法人の意思決定・業務執行のための機関として社員総会や理事会が必要であることが定められています。
かつての医療法では理事が原則として3人以上必要であることや、理事の過半数で業務が決定されることが記載されているだけでしたが、平成28年(2016年)の改正以降、医療法人は必ず理事会を設置することが法律上明確に規定されました。
株式会社の場合、組織を巡る紛争や訴訟が数多く発生してきた歴史があり、その防止のために会社法には詳細な規定が設けられています。一方で、医療法人にはそのような訴訟等が株式会社と比較すると少なかったこともあるのか、あるいは医療法人の非営利性・性善説に基づいているからなのか、組織についての規定は依然として必要最小限ということができると思います(それでも、以前と比べると多くはなりました)。
### 医療法人の組織の詳細は定款によって異なる場合がある
医療法だけでは医療法人の組織を完全に理解することはできません。医療法に記載されていない細部については、各医療法人が定める定款が具体的なルールとして機能しています。医療法において理事会の設置が義務付けられたものの、理事会の運営方法など詳細な事項は各法人の定款で規定される仕組みとなっています。
定款は行政の指導や認可に大きな影響を受けているものの、内容は医療法人ごとに異なってもよいことになっています。
ただ、現在は、厚生労働省が[モデル定款例](https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000135131.html)を作成しており、多くの都道府県では医療法人設立時にこのモデルに準拠した定款作成を求めています。
そのため、最近設立された医療法人の定款は比較的似通った内容になっていることが多い印象です。ただ、都道府県ごとに若干の差異が存在することもあり決して一律ではありません。
また、昭和期に設立された古い医療法人では、時代の変化や法改正に応じて定款を部分的に修正・追加してきたため、現在のモデル定款とは大きく異なる独自の内容を持っている場合もあります。
その結果、定款の違いによって組織や運営方法にも差異が生じます。
例えば、社員の除名要件として、「総社員の過半数の出席、出席社員の過半数の同意」としている法人もあれば、「総社員の三分の二以上の出席、出席社員の三分の二以上の同意」と厳しく規定する法人もあります。仮に法人内で紛争が起きた場合、「過半数」と「三分の二以上」のどちらが必要なのかは重大な意味を持つことになります。
### 医療法人の主な構成員と組織
医療法と定款により、医療法人の組織・構成員は以下のように定められています。
1. 社員(これは従業員のことではありません)
2. 社員総会
3. 理事
4. 理事会
5. 理事長
6. 監事
(財団医療法人については、医療法人全体の1%未満と少数であるためここでは割愛します。)
社員の集まりである社員総会は、医療法人の最高の意思決定機関となります。その社員総会が理事を選出し、選出された理事の集まりである理事会が法人の日常業務に関する意思決定や業務執行の監督を行います。
そして、理事会は理事長を選出し、選出された理事長が法人を代表します。
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### 社員と社員総会が最も重要
一般的には理事長が医療法人の中心的存在のように思われがちですが、実は医療法人の根幹をなす最も重要な構成員と組織は社員と社員総会なのです。社員総会は医療法人における最高意思決定機関であり、理事や監事の選任・解任権を持ち、定款変更や法人の解散などの重要事項を決定する権限を有しています。
つまり、医療法人の運営方針や将来を左右する根本的な力は社員と社員総会に帰属しているのです。
[[医療法人法入門 (3)|次回]]は、この医療法人の根幹をなす社員と社員総会について詳しく解説していきます。
(公開日:2025年4月3日 文責:弁護士鈴木沙良夢)