##  医療法人法入門 (3) ### 医療法人の社員・社員総会について(前半) [[医療法人法入門 (2)|前回]]は、医療法人の組織構造についてざっくりお話をしました。 今回は医療法人における社員総会の現状について述べた上で、社員について重点的に述べていきたいと思います。 医療法人には、社員総会と理事会という二つの機関がありますが、社員総会がより根本的な権限を持っています。しかしながら、多くの医療法人の理事長先生において、このような認識はあまりなされてはおらず、むしろ理事会の方が重要であると考えている傾向があるようです。 このことは、経営方針を決める会として理事会を開催することで済ませていたり、社員総会が(法律上は、少なくとも年1回の開催が義務付けられているにもかかわらず)実際にはあまり開催されていない、あるいは多くても定款で定められた年2回程度しか行われていないことが多く、そのために印象が薄いということから来ているのかもしれません。 また、名称からしても理事会と社員総会では、理事会のほうがなんとなく格式があるようなイメージを受けるからかもしれません。 ###  社員総会の現状と問題点 現状としましては、未だに社員総会・理事会の区別が明確にはなされていない医療法人もかなりあります。同じく社員・理事の違いも認識されていないところも少なくないように感じます。 さらに言いますと、社員総会については理事会を兼ねる形で一挙に開催して議事録を作成し、関係者が持ち回りで記名押印をするというように社員総会が形骸化してしまっている法人や、そもそも全く開催しておらずその時々に事務方が議事録だけ作っているというような法人も少なくないのが現状です。 しかし、このような社員総会の運用には問題があります。それは、医療法に書いてある開催方法に反しているというだけでなく、これから述べていくように社員・社員総会が大きな権限を持っており、社員総会で決議された事項や、社員総会議事録に記載された事項を後でひっくり返すということは容易ではないからです。 また一方で、社員総会議事録に記載されていた事項であっても、実際に開催されていないことが判明した場合には、その社員総会における決議の効力が裁判で無効とされてしまうこともあります。これもまた大きなリスクです。 社員総会は実際にしっかり開催し、きちんとした議事録を作成しておくことが大切です。 ###  医療法人の社員とは? 社員総会について説明をするのに先だって、社員総会の構成員に当たる「社員」について話をいたします。 看護師や事務員など医療法人で雇用している従業員のことを「社員」と呼ぶことがあります。しかし、医療法における「社員」は、このような一般的な意味での「会社で働く従業員」を指すものではありません。医療法上、社員とは社員総会のメンバーのことを指します。 社員の地位は、医療法人の設立時に社員となるかあるいは設立後に社員総会で認められて入社という形で得ることになります。 よく誤解があるのですが、医療法人に出資をしているか否かは社員の地位とは関係はありません(なお、平成19年の医療法改正により、現在は出資持分のある医療法人を設立することはできなくなりました)。出資を全くしていない社員も多数います。 医療法第46条の3の3第1項では、社員は社員総会において一人一票の議決権を持つ、とされています。つまり、医療法人に対する出資額が多い社員も出資を全くしていない社員も同じ一票を持っているということになります。 これは株式会社で株主が持株数に応じた議決権を持っていることとは対照的です。 社員総会においては、後述するように医療法人の根幹に関わる重要な事項を決めることができるとされています。仮に医療法人において、重要な事項を決めようとするのであれば、過半数あるいはそれ以上(決める事項によって異なる場合があります)の社員の賛同を得なければならないのです。 なお、医療法人の社員は、医師ではなくてもなることができます。 また、営利を目的とする会社自体が社員になることはできません(ただし、会社自体が医療法人に金銭を拠出すること自体は禁止されていません。また、非営利法人については、一定の条件下で社員となること(「入社」といいます)が認められる場合がありますが、その場合でも出資持分を保有することはできないとされています)。 未成年は社員になれますが、意思決定ができる程度の能力(義務教育終了程度)が必要とされています(平成19年3月30日付厚生労働省医政局長通知)。実際には義務教育が終わったからといってすぐに未成年者を社員に入れている事例は少ない印象です。 ![[medical-corporation-structure.svg]] 医療法人における「社員」、そして最高意思決定機関である「社員総会」は、法人運営の根幹をなす非常に重要な存在です。しかし、その重要性が認識されず、社員総会が形骸化している実態も少なくありません。法的なリスクを回避し、健全な法人運営を維持するためには、社員総会を実際に適正な手続きで開催することが極めて重要です。 社員によって構成される社員総会で、何がどのように決められるのか、という点については[[医療法人法入門 (4)|次回]]説明したいと思います。 (公開日:2025年4月4日 文責:弁護士鈴木沙良夢)