## 医療法人法入門 (4)
### 医療法人の社員・社員総会について(後半)
[[医療法人法入門 (3)|前回]]は、社員と社員総会の基礎知識についてお話をしました。
今回は、医療法人の社員総会で何を決めることができるのかについて説明したいと思います。
社員総会は医療法人の運営を担う理事等の役員を選任したり、構成員である社員の入社・除名を決定したりする権限を有しており、名実ともに医療法人の最高意思決定機関と言えます。
しかしながら、多くの医療法人では社員総会は予算決定と決算承認のために年2回程度開催されるのが一般的で、それすら形骸化していて書類上開催した体裁になっているだけの医療法人も見受けられます。そのため、実際に医療法人で社員・理事をされている方には、社員総会にそれほどの大きな権限があるようには思えないかもしれません。これは法律と医療法人の定款が次のようになっていることが原因だと思われます。
### 社員総会と理事会の役割分担
医療法人についてのルールを定めている医療法では
```
医療法第46条の3第1項
社員総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項について決議をすることができる。
```
と書かれています。最高意思決定機関であるにしては、何ともぼんやりとした書き方です。
多くの医療法人では定款に以下のような記載があります。
```
次の事項は、社員総会の議決を経なければならない。
(1) 定款の変更
(2) 基本財産の設定及び処分(担保提供を含む。)
(3) 毎事業年度の事業計画の決定又は変更
(4) 収支予算及び決算の決定又は変更
(5) 重要な資産の処分
(6) 借入金額の最高限度の決定
(7) 社員の入社及び除名
(8) 本社団の解散
(9) 他の医療法人との合併若しくは分割に係る契約の締結又は分割計画の決定
2 その他重要な事項についても、社員総会の議決を経ることができる。
```
定款まで見てみると、重要な決定のかなりの部分を社員総会が決めることになっている印象を受けるのではないでしょうか。
これと比較する形で、理事会を見てみましょう。
理事会については、医療法では以下のように書かれています。
```
医療法第46条の7 理事会は、全ての理事で組織する。
2 理事会は、次に掲げる職務を行う。
一 医療法人の業務執行の決定
二 理事の職務の執行の監督
三 理事長の選出及び解職
3 理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。
一 重要な資産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 重要な役割を担う職員の選任及び解任
四 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 社団たる医療法人にあつては、第四十七条の二第一項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第百十四条第一項の規定による定款の定めに基づく第四十七条第一項の責任の免除
六 財団たる医療法人にあつては、第四十七条の二第一項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第百十四条第一項の規定による寄附行為の定めに基づく第四十七条第四項において準用する同条第一項の責任の免除
```
また、理事会について、定款では以下のような記載になっていることが多いです。
```
理事会は、この定款に別に定めるもののほか、次の職務を行う。
(1)本社団の業務執行の決定
(2)理事の職務の執行の監督
(3)理事長の選出及び解職
(4)重要な資産の処分及び譲受けの決定
(5)多額の借財の決定
(6)重要な役割を担う職員の選任及び解任の決定
(7)従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止の決定
```
要約をしますと、医療法人では、極めて重要な事項は社員総会で決める必要があるけれども、通常業務やそこそこ重要という程度の事項についての決定については理事会に任せられていることになります。
そのため、普段の業務の中では、社員総会を開かず会議で何かを決めるとしても理事会で済ませることが多い、ということになるのです。
そのため、日々馴染みのある理事会が重要であると考える方が多いのかもしれません。
他にも、日本語の言葉の響きとして"理事会"の方が格式高く感じられる、ということもあるようです。
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### 社員総会で決議すべき主な事項
ただし先ほど見たように、理事の選任の他に、定款で定められた事項は社員総会で決議しなければなりません。
```
次の事項は、社員総会の議決を経なければならない。
(1) 定款の変更
(2) 基本財産の設定及び処分(担保提供を含む。)
(3) 毎事業年度の事業計画の決定又は変更 のとする。
(4) 収支予算及び決算の決定又は変更
(5) 重要な資産の処分
(6) 借入金額の最高限度の決定
(7) 社員の入社及び除名
(8) 本社団の解散
(9) 他の医療法人との合併若しくは分割に係る契約の締結又は分割計画の決定
2 その他重要な事項についても、社員総会の議決を経ることができる。
```
これらの事項を、社員総会の決議を得ないで行ったり、それこそ理事会の決議だけで行ってしまったり、あるいは決議を得ていた形式が整っていてもその手続に不備があったりすると後々問題となることもあります。
### 社員の入社・除名と裁判リスク
上記の事項の中でも、(7)の「社員の入社及び除名」については大きな争いに発展しがちです。
除名については、その要件として「社員たる義務を履行せず本社団の定款に違反し又は品位を傷つける行為のあった者」とされている場合や、決議を採るにあたって「社員総数の過半数の出席、出席社員の過半数の賛成で十分」としている医療法人もある一方、「社員総数の3分の2以上出席、出席社員の3分の2以上の賛成が必要」としている医療法人もある(特に2007年より前に設立された医療法人に多いです。)ため、要件を満たしているか、手続を正しく行っているかといった点をよく確認する必要があります。
医療法・定款に則った適切な決議を行っていなかった場合には、除名された社員から社員総会の決議が無効あるいは不存在であるとして裁判を起こされることになります。数年にわたる裁判を経た上で敗訴し、社員の除名がなかったことにされてしまうこともあります。
このように社員総会については、適切な手続きを怠ると重大な法的問題に発展する可能性があります。そのため、社員総会を形式的な行事として軽視するのではなく、実質を伴った最高意思決定機関として機能させることが求められます。
次回は社員総会の具体的な開催方法について解説します。
(公開日:2025年4月15日 文責:弁護士鈴木沙良夢)