## 医療法人法入門 (5) ### 社員総会の招集手続きについて [[医療法人法入門 (4)|前回]]は、社員総会で何を決めることができるのか、そして社員総会と理事会の役割分担についてお話をしました。 今回は、社員総会を実際に開催するにあたっての招集手続きについて解説します。 社員総会が医療法人の最高意思決定機関であり、重要な権限を持っていることはこれまで述べてきたとおりです。しかし、いくら重要な機関であっても、正しい手続きで開催されなければ、そこで行われた決議の効力が後に争われるおそれがあります。 社員総会の招集手続きは、いくつかのルールが法律と定款で定められています。 ### 定時社員総会と臨時社員総会 社員総会には、大きく分けて**定時社員総会**と**臨時社員総会**の二つがあります。 まず定時社員総会について見てみましょう。医療法では次のように規定されています。 ``` 医療法第46条の3の2第2項 社団たる医療法人の理事長は、少なくとも毎年一回、定時社員総会を開かなければならない。 ``` つまり、理事長は少なくとも年に1回は定時社員総会を開催する義務を負っています。 ただし、実際にはこれだけでは足りないことが多いです。厚生労働省の[モデル定款例](https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000135131.html)では、定時社員総会について次のように規定しています。 ``` モデル定款第17条第1項 理事長は、定時社員総会を、毎年○回、○月に開催する。 ``` 備考欄には「定時社員総会は、収支予算の決定と決算の決定のため年2回以上開催することが望ましい。」とされており、多くの医療法人では定款で年2回の開催が定められています。 医療法人の設立時には、このモデル定款をそのまま使用したり、あるいは各都道府県が用意した定款のひな型をほぼそのまま利用するケースも多く、結果として定時社員総会を年2回開催することになっている医療法人が多いと思われます。 次に臨時社員総会ですが、これは定時社員総会とは別に、必要に応じて開催されるものです。 ``` 医療法第46条の3の2第3項 理事長は、必要があると認めるときは、いつでも臨時社員総会を招集することができる。 ``` 理事長が「必要がある」と判断すれば、いつでも臨時社員総会を招集できます。定款の変更や役員の選任など、定時社員総会の開催時期まで待てない事項が生じた場合に開催されることが多いでしょう。 ### 社員からの招集請求 社員総会の招集は、通常は理事長が行いますが、社員の側から招集を求めることもできます。 ``` 医療法第46条の3の2第4項 理事長は、総社員の五分の一以上の社員から社員総会の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求された場合には、その請求のあつた日から二十日以内に、これを招集しなければならない。 ``` 総社員の5分の1以上の社員が、「この議題について話し合いたい」と具体的な目的事項を示して請求した場合、理事長は請求があった日から20日以内に臨時社員総会を招集しなければなりません。 なお、この「5分の1」という割合は、定款でこれよりも低い割合に定めることもできるとされています。 この規定は、理事長がなかなか社員総会を開こうとしない場合や、社員総会で取り上げてほしい議題がある場合に、社員が自ら動くための手段として設けられているものです。 実務上は、医療法人内で理事長と社員との間に何らかの意見の対立が生じた場面で、この招集請求が行われることがあります。理事長としては、この請求があった場合には20日以内に招集しなければならないことを知っておく必要があります。 それでも理事長が社員総会を開催しない場合については、更に複雑な論点があるためここでは割愛いたします。 ![[general-meeting-convocation.svg]] ### 招集通知はどのように行うのか 社員総会を開催するためには、あらかじめ社員に対して招集通知を出す必要があります。 ``` 医療法第46条の3の2第5項 社員総会の招集の通知は、その社員総会の日より少なくとも五日前に、その社員総会の目的である事項を示し、定款で定めた方法に従つてしなければならない。 ``` 医療法では「目的である事項を示し」とだけ書かれていますが、モデル定款ではもう少し具体的に定められています。 ``` モデル定款第17条第4項 社員総会の招集は、期日の少なくとも5日前までに、その社員総会の目的である事項、日時及び場所を記載し、理事長がこれに記名した書面で社員に通知しなければならない。 ``` モデル定款では、目的事項だけでなく**日時及び場所**も記載した上で、**理事長が記名した書面**で通知することとされています。実務的にも、いつ・どこで・何を話し合うのかが通知に書かれていなければ社員は出席できませんので、当然のことと言えるでしょう。 ここでのポイントをまとめますと、まず**社員総会の日から少なくとも5日前**に通知を出さなければなりません。この「5日前」には社員総会当日は含みません。ただし、定款でこれより長い期間が定められている場合には、その期間に従うことになります。 また、発送の日を含むのか含まないのか、発送ではなくて5日前に到達している必要があるのではないか、といった論点もあるため、通知は一週間以上前に、できれば10日前くらいには発送したほうがよいと考えます。 次に、通知の中で**社員総会の目的である事項**(つまり、何について話し合い、何を決議するのか)を示さなければなりません。単に「社員総会を開催します」という通知だけでは足りず、議題を具体的に記載する必要があります。 そして、通知の方法について、モデル定款の本文では上記のとおり**理事長が記名した書面**による通知が規定されています。もっとも、モデル定款の備考欄では「招集の通知は、定款で定めた方法により行う。書面のほか電子的方法によることも可。」とされており、定款で電子的方法による通知を定めている場合には、電子メール等で通知することも可能です。ただし、電子的方法を用いるには定款にその旨の定めが必要ですので、自法人の定款を確認しておくことが大切です。 ### 通知した事項以外は決議できない 招集通知に関連して、もう一つ重要な規定があります。 ``` 医療法第46条の3の2第6項 社員総会においては、前項の規定によりあらかじめ通知をした事項についてのみ、決議をすることができる。ただし、定款に別段の定めがあるときは、この限りでない。 ``` 原則として、社員総会ではあらかじめ招集通知で示した議題についてしか決議をすることができません。 例えば、招集通知に「収支予算の決定」と「事業計画の決定」しか記載されていなかった場合に、当日になって突然「理事の解任」について決議を行うことは、原則としてできないことになります。 これは、社員が社員総会に出席するかどうかを判断するための情報を事前に提供するという意味でも大切な規定です。議題を知らされていれば「この議題なら出席しなくてもいいかな」と判断する社員もいるかもしれませんが、もし当日に重要な議題が突然追加されれば、欠席した社員にとっては不意打ちになってしまいます。 ただし、条文にあるとおり「定款に別段の定めがあるとき」はこの限りではないとされています。モデル定款でも次のように規定されています。 ``` モデル定款第22条第1項 社員総会においては、あらかじめ通知のあった事項のほかは議決することができない。ただし、急を要する場合はこの限りではない。 ``` このように、モデル定款では「急を要する場合」という例外が設けられています。ただし、この例外規定があるからといって安易に通知のない議題を持ち出すと、後から「本当に急を要する場合だったのか」と争われるおそれもありますので、運用には慎重を期す必要があるでしょう。 ### 招集手続きの不備が招くリスク ここまで見てきた招集手続きは、一つ一つは難しいものではありません。しかし、これらの手続きに不備があると、社員総会の決議自体が争われることになりかねません。 よくある事例としては、招集通知の発送が期限に間に合っていなかったケースや、一部の社員に通知が届いていなかったケースがあります。また、通知には記載されていなかった議題について決議を行ってしまい、その決議の効力が問題になるケースも見られます。 さらに、設立以来、招集手続きを行っておらず社員総会の議事録だけ作成してきた、というような医療法人も少なくないようです。 特に社員間で対立が生じた場合には、決議の内容だけでなく、招集手続きが正しく行われていたかどうかが厳しく問われることがあります。日頃は問題にならないような手続き上の瑕疵であっても、紛争が起きた際にはその手続きの不備を突かれ、決議の効力を争われるおそれがあるのです。 社員総会を形式的な行事として軽視するのではなく、招集通知の送付時期・方法・記載事項を毎回確実に行うことが、将来のリスクを防ぐ上でとても重要です。 次回は、社員総会の議事の進め方や議決方法、議事録の作成について解説します。 (公開日:2026年3月11日 文責:弁護士鈴木沙良夢)