再生医療とPL法
PL法(製造物責任法)は、「製造物の欠陥によって使用者が損害を受けたときに、製造者が賠償の責任を負う」という法律です。
あたり前の内容にも思われるかもしれませんが、平成7年にPL法が施行される前には、商品に欠陥があって怪我をしたような場合でも、製造者に「故意または過失」があることを証明しなければ裁判では損害賠償は認められませんでした。
故意または過失というのは「商品に人が怪我をするような欠陥があるのを知っていたのにあえて放置した」とか「事故が起きないようにすべき注意を怠った」などということですが、このような製造者の内部的な事柄を消費者が証明することは極めて難しく、賠償責任が認められないことが多くありました。
そのためPL法が制定され、「製造物」に「欠陥」があることが証明できれば、製造者の損害賠償が認められることになったのでした。
このPL法が制定される前後に「血液製剤やワクチンなどにPL法の適用があるのか?」という議論があり、国会でも審議されました。
PL法では、「製造物」とは、ある原材料が手を加えられてつくられた新しい物や新しい価値を作り出された物のことを指します。
この点、血液製剤については全血製剤であったとしても血液保存液が添加されており、ワクチンについても生ワクチンであったとしても培養や弱毒化がされていることから、いずれも「製造物」にはあたることとされました。
ただ、政府や国会は、血液製剤については、(1)生命の危機に使用されるものであること、(2)感染や副作用等の危険性について適切に警告していること、(3)技術的に副作用等を完全に排除することができないこと、から副作用が生じたとしても血液製剤の「欠陥」にはあたらない場合があり得るとの見解を示しています。
これは、血液製剤に対して全面的にPL法が適用されることとなった場合に、血液製剤の価格にPL法による損害賠償コストが反映され、これによって現場における血液製剤の使用が困難になることを防ぐ意味合いがあったのではないかと推測しています。
そして、今(平成25年3月28日現在)、かつての血液製剤やワクチンと同様に医療の分野においてPL法の適用が話題となっているのが再生医療・細胞治療の分野です。
政府はこれらについても、今のところ血液製剤と同様に、PL法上の「製造物」にはあたるものの「欠陥」にはあたらない場合があり得る、という方向で責任の限定を行おうとしているようです。
ただし、再生医療・細胞治療についてはその特質から、治療が必要であることは間違いないが生命の危機の状態ではない事案に利用されることが想定されますし、技術的な成熟がなされるにも相当な時間がかかるでしょう。従来の血液製剤における解釈をそのまま当てはめることはできないものと思われます。
仮に、裁判において再生医療の「製造物」が「欠陥」ありと判断された場合、製造者が損害賠償責任を免れるためには、物を引渡した時の科学又は技術では欠陥があることを認識できなかったことを、製造者の側で証明しなければならずこれは相当に重い負担となるでしょう。
政府が従来の見解を維持するのか、再生医療については条文上PL法の適用の範囲外としてしまうのか、あるいは医薬品副作用被害救済制度のような補償制度を作るのか、様々な道があり得るでしょう。再生医療を取り巻く法律関係についてはこれからも注視していきたいと思っております。
(平成25年3月28日 文責:弁護士鈴木沙良夢)
なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。