医療と法

宗教的輸血拒否と医療2

宗教的輸血拒否と医療(2)

前回から引き続いて、宗教的輸血拒否のケースに対して実際に医師・医療機関としてどのような対応をすべきかについて書いていきます。

今回は、輸血拒否の場合の前提を確認するとともに、「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」(宗教的輸血拒否に関する合同委員会報告)に記載がなされていない20歳以上の成人であって判断能力を欠く患者の場合について、医療機関としてどう対処すべきかについて述べていきます。

どの程度まで輸血を拒否しているかの確認

 まず前提として、当該患者がどの程度まで輸血等の医療行為を許容しているのかの確認をすべきです。ある宗教団体では、全血、血小板、血漿、預血による自己血の使用は拒否していますが、アルブミン、血友病製剤、免疫グロブリン、術中回収式の自己血の使用については患者本人の判断とし、輸液や無血性の増量剤の使用は可能としているようです。このようなことから、患者ごとにどの程度までの輸血拒否であるのかの確認を怠ると、後日問題が生じることもあり得ます。

患者本人が成人で判断能力がある場合

 患者に判断能力がある場合には、ガイドラインに従って対処をすればおおむね問題がないと思われます。
手術前に本人に判断能力があれば、医療機関側において免責証明書をもらった上で患者本人の意向に従って絶対的無輸血(いかなる場合でも輸血は行わない)で手術をするか、あるいは相対的無輸血(無輸血で手術を行うが、輸血を行わなければ生命に危険が生じると判断した場合には輸血を行う)でのみ手術を行う立場を表明し、その同意が得られない場合には転院を勧めることになるかと思います。

患者本人が成人で判断能力がない場合(輸血拒否の意思表示カード等を携帯していた場合)

 それでは、今回の場合(平成23年4月に青森市の病院において、宗教団体「エホバの証人」の女性信者(当時65歳)が、意識不明の状態(急性硬膜下血腫)で手術をしたが、女性の息子が輸血拒否を申し出たことから輸血ができず手術を中止し当日夜に女性は死亡した)のように、成人している患者が病院に搬入された時点で判断能力を欠いていたが手術の必要性・緊急性があるという場合について、医師・医療機関はどのように判断を行えばよいのでしょうか。
宗教的輸血拒否の根拠を個々人の自己決定権にあると考える場合、当然のことながら本人の意思を最も尊重することになります。
そのため、本人に判断能力がなくても輸血拒否の意思表示カード等を携帯していた場合には、絶対的無輸血での手術を検討することになります。ただし、この場合にも家族との連絡が取れない場合や、家族が輸血を了承した場合などは、相対的無輸血で手術を行うことが望ましいと思われます。
家族と連絡が取れない場合には輸血拒否の意思表示カードの携帯のみで本人の意思を確認できるとは言いがたいという面があります。
家族が輸血を了承した場合にはガイドラインにおける「当事者が18歳未満、または医療に関する判断能力がないと判断される時で、親権者は輸血を希望するが、当事者が輸血を拒否する場合」に準じて相対的無輸血で手術を行うのが相当ではないかと思います。
自己決定権を重視すると本人の輸血拒否の意思が明確であるため絶対的無輸血で治療を行うべきであるとする考え方もあります。しかし、個人的には、この考え方によると、家族の輸血の同意に反して絶対的無輸血で手術を行い患者が死亡した場合の訴訟リスクが極めて高くなるように思われます。

患者本人が成人で判断能力がない場合(輸血拒否の意思表示カード等を携帯していない場合)

 本人に判断能力がなく輸血拒否の意思表示カード等も持ち合わせていない場合には、仮に付き添いの家族が絶対無輸血による手術を望んだとしても相対的無輸血による手術を行うべきであると考えます。輸血拒否の意思表示カード等がない以上、医療機関側では家族等からの伝聞というあやふやな形から本人の意思を推測することしかできないからです。

結論

 いずれにせよ、医療機関としては、宗教的輸血拒否の信条をもつ患者を担当することになる場合に備えて、事前にルールを作り公開をしておくべきです。また、患者の付き添いの家族にも策定したルールを示した上で、医師・医療機関としてとる立場を明確に説明しておく必要があります。あらかじめ妥当なルールを定めておき、それに従って判断をした場合にはその後の訴訟リスクは大幅に低減するものと思われます。
(平成25年6月3日 文責:弁護士鈴木沙良夢)

なお、本文の内容は作成された当時における法律や規則に基づいております。その後の法改正などにより現時点では的確ではない内容となっている場合があることをご了承ください。

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