医療法務

医業未収金に時効はあるのですか?

医業未収金に時効はあるのですか?

Q.2012年の4月からある医療法人の事務長の職につきました。前職の事務長は、強く請求をすると病院の評判が悪くなるとのことで未収金については積極的な請求をして来なかったようですが、医療法人を取り巻く経済状況からもそう悠長なことをいってられなくなりました。理事長先生は私に一任するといっていますが、正直なところどこから手を付ければよいのかわかりません。
未収金はものによっては10年以上前のものもあります。時効というものがあったかと思うのですが、このような10年以上前の債権を請求してもよいものなのでしょうか。
また、時効を止める方法というものはあるのでしょうか。

医業未収金の時効について

医業未収金は、請求できるようになってから3年間で時効にかかります。これは民法第170条に規定されています。

(三年の短期消滅時効)
第百七十条  次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。
一  医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
二  工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権

それでは、例えば退院から3年を超えてしまった医業未収金を請求することは違法なのでしょうか。
そのようなことはありません。時効が効力を発揮するためには、債務者が「援用」という「時効になっているので払いません」という意思表示をする必要があります。したがって、時効にかかる医業未収金であっても、債務者が任意に払う分には全く問題はありません。
ただし、債務者に「時効なので払いません」といわれてしまえば裁判に訴えても回収することはできません。
三年という期間は長いようですが、日々の雑務に追われているとあっという間に経過してしまう時間でもあります。大事なことは病院においてしっかりとした医業未収金の債権管理を行い時効に掛かる前に回収することです。あるいは、一定期間が経過した医業未収金については自動的に弁護士に回収を依頼するというシステムづくりをしておくこともよいかと思います。

三年の経過が間近になった医業未収金について

それでは、三年の経過が間近になっている医業未収金についてはどうすればよいのでしょうか。時効を止める方法はないのでしょうか。
(1) 請求書や催告書を送る方法による「催告」
まず、6ヶ月の間だけ時効の成立を猶予する方法があります。これは、「催告」といいます。「催告」とは、債務者に対して債権を支払うよう求めることであって、請求書を送ったりすることがこれにあたります。この「催告」をおこなってから6ヶ月以内に裁判などを起こせば時効は成立しなかったこととなります。
つまり、三年の経過が間近に迫っている医業未収金がある場合には、取り急ぎ請求書や催告書を債務者に送付して、その後6ヶ月以内に具体的な裁判手続を行えば時効は成立しないのです。このように「催告」はその場しのぎの方法といえます。
よく、請求書を送り続けているから時効にはならないと考えている方がいらっしゃいますが、誤りです。請求書を送りつけるという行為は、法律的には「催告」にすぎず、請求書を送るたびに6ヶ月間時効の期間が伸びるというものではありません。
(2) 裁判手続による「請求」
裁判所に民事訴訟を起こした場合、起こした時点で時効は中断します。そのため、時効の成立が近くなった医業未収金については、裁判を起こすかどうかを検討する必要があります。
訴訟を起こすにもコストがどうしてもかかります。そのコストとそれによって回収できると思われる金額とを比較して訴訟を起こすかどうか考えるのが通常です。
勝訴すれば、判決が確定してから10年間は時効にかかりません。
(3) 債務者に医業未収金を認めてもらうことによる「承認」
債務者に債務の存在を認めてもらえれば、その時点で時効は中断します。これを「承認」といいます。一番コストが掛からない方法です。
つまり、時効が完成する前に、債務者に債務がいくらあるかということを認めてもらうのです。実際には後で証明ができるように相手から文書でもらっておくことになります。
また、債務者から一部支払を受けたりすることによっても、債務者自身が債務があることを認めていることになりますので「承認」に当たるとして時効は中断します。
「承認」をした時から3年間は時効にはかかりません。
(4) 時効完成後に債務の存在を認めてもらうことによる「時効利益の放棄・喪失」
時効が成立してしまったとしても、債務者に払う意志があるときはこの時効の利益を放棄するということもあります。そのため、3年が経過してしまった医業未収金についても、「支払います」という内容の文書を債務者から取ることができれば、その文書に記載された返済の日の翌日から3年間が経過しない限り時効にはかかりません。
つまり、債務者から返済の意思が記載された文書をもらうことが出来れば時効の完成が概ね3年伸びることになるのです。

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