労務問題

勤務医の雇用・解雇について

病院・診療所の労務問題(勤務医の雇用・解雇について)

Q.私は埼玉県で診療所を開設している医療法人の理事長です。私のクリニックでは日曜全日と土曜の午後が休診になっています。
常勤の医師は院長である私一人だけで、水曜日以外は私が外来を担当しています。水曜日についてはA医師を非常勤という形で雇って診察を任せております。

しかし、このところA医師について問題が起きました。水曜日に診察を受けた患者さんから私の所に「先週の水曜日にA医師の診察を受けた際に暴言を受けた」という苦情が入ってきました。
にわかには信じがたかったのですが、その場面に居合わせていたという看護師に話を詳しく聞くと患者さんの言っていることが事実だということがわかりました。

私は把握できていなかったのですが、どうやらA医師は日によって機嫌が変わる性格のようで当日は相当気が立っている様子だった、とのことでした。先週の水曜日についても、患者さんの側に非があるということもなく、八つ当たりのようなものだったとのことです。
また、他の従業員に聴き取りを行ったところ、今回の件とは別に複数の患者さんに同様の行為があったこともわかりました。

もちろんA医師本人に事実を確認してからにはなりますが、患者さんにこのような対応をしているのであれば、私としてはA医師には辞めてもらうしかないと思っております。
A医師とは話し合いますので、そこで納得して辞めてもらえるのであればよいのですが、そうならなかった場合に解雇などできるのでしょうか。
非常勤とはいっても医者ですので、そのことで他の従業員と何か違いが出てくるものなのでしょうか。

勤務医は他の労働者と違うのでしょうか?

医師の中には、そもそも「自分が労働者である」という認識をしていない方もおられるようで、これは使用者側・被用者側双方に見受けられる傾向です。
しかしながら、法律上は、医師という立場であったとしても、人に雇われて賃金を得ている場合には労働者にあたるとされています(労働基準法第9条)。
そのため、労働者であるということにおいては、医療機関で働いている他の従業員・看護師と違いはありません。

勤務医の解雇について

前述のとおり勤務医も労働者になりますので、労働基準法や労働契約法というような労働者に適用される法律が全て適用されます。
解雇については、労働契約法という法律において「客観的に合理的な理由を欠いて、社会通念上相当と認められない場合には無効となる」とされています(労働契約法第16条)が、この規定も勤務医にそのまま適用されます。
要するに裁判所で争われるようなことになった際に、解雇が有効だと認められるためにはキチンとした理由が必要ですので、その「解雇にはキチンとした理由がある」ということを証明できるようにしておかなければならない、ということです。

勤務医の場合、退職等の話になったとしても裁判などの紛争になることは珍しく話し合いで終わる場合が多いようです。医師の場合には現勤務先と積極的に争うよりは、より好条件の他の勤務先を探した方がよい、という判断がもしかするとあるのかもしれません。しかし、当然のことながら話し合いで解決が付かない場合もあります。

今回の件については、もしA医師が任意での退職に応じないというのであれば、患者さんに対する複数の暴言等の行為を理由として解雇の手続きを進めていくことになるでしょう。
理事長先生が職員らから聴き取った内容については、報告書等の形で提出させるなどして、裁判等の紛争になったときにいつでも提出できるように証拠化しておきましょう。
また、解雇に当たっての使用者側(医療法人側)の対応や、A医師本人の意見・弁解を聞いたかなど、、解雇において適正な手続がなされていたかという点も解雇の有効性には影響が出てきますので、どのような経緯を辿ったかについては逐一記録をつけておくべきでしょう。

医療法人に就業規則があれば勤務医にも適用されます。例えば、懲戒解雇をしようとすれば就業規則の懲戒解雇事由に該当しなければなりませんので、就業規則の該当箇所を見て懲戒解雇ができるかどうか判断する必要があります。

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